ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
エピタキシャルグラフェンの構造と物性いる.24)一方,グラフェンの高移動度を利用したトランジスタ応用も期待される.グラフェンの最大の特徴は,バンドギャップはないものの移動度が高いことである.これを最も直接的に利用できる応用先は,電波の送受信に用いられるアナログ高周波トランジスタである.米国IBMグループは,SiC上グラフェンを用いて遮断周波数300 GHzの高速動作に成功している.25)シリコンベースのデバイスでは40 GHzが限度であり,GaAsやInPを超えることも可能であることから,今後ますます発展が期待される自動運転車や遠隔医療通信用に求められる超高速デバイス開発につながると大きく期待されている.また,グラフェン表面への分子吸着による電気抵抗の変化を利用して,高感度ガスセンサーへの応用も期待される.最近では,NO 2やSO 2,COなどを選択的かつ高感度に検知できるセンサーが報告されている.26)3.エピ・グラフェンの構造・物性・成長機構3.1エピ・グラフェンの構造と物性2008~2009年にかけてYakimovaらおよびSeyllerらは,大気圧アルゴン雰囲気中で,SiC(0001)単結晶基板を1,650度程度に加熱することで,基板全面に単層グラフェンを形成できることを報告した.27)これ以後,Ar中でのグラフェン成長が主流である.図3には,大気圧アルゴンフロー雰囲気で成長したグラフェンの原子間力顕微鏡(AFM)像,LEEDパターン,角度分解光電子分光(ARPES)スペクトル,ラマンスペクトル,およびHall効果測定の結果を示す.28)図3aのAFM形状像からは,グラフェンが形成された基板表面は,原子レベルで平坦であることがわかる.図3bのAFM位相像では,コントラストが均一であるということから,グラフェン層数が均一であることがわかる.形状像においてステップが見られるにもかかわらず層数が均一である理由は,後述する成長機構によりSiC表面のステップを覆うようにグラフェンが形成されるためである.図3cのLEEDパターン中には,SiCの回折斑点(黄矢印)に加えて,それと30度回転したグラフェンの回折斑点(赤),および界面バッファー層由来の超格子反射(緑)が観察される.ここでバッファー層とは,グラフェンとSiC基板の界面に存在する炭素原子層であり,図2aおよび図2bにおいて破線で示した層である.12)バッファー層において,面内の原子配列はグラフェンとほぼ同一であるが,一部の炭素原子が,直下のシリコン原子とsp 3共有結合を形成しているため,この層はグラフェンとしての性質を示さず,絶縁性である.実際,先の図2cに示したグラフェンとバッファー層の電子エネルギー損失分光(EELS)スペクトルから,以下のことがわかる.13)バッファー層上のグラフェン(橙)と(112 _ n)ファセット面上のグラフェン(青・緑)では,グラフェン特有のπ*およびσ*エッジ日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図3エピ・グラフェンの構造と物性.28)(Structural andphysical properties of epi-graphene on SiC.)グラフェン成長後のAFMによる(a)形状像および(b)位相像.(c)LEEDパターン.黄,赤,緑の矢印は,それぞれSiC,グラフェン,6√3×6√3R30構造の回折斑点を示す.(d)ARPESスペクトル.(e)ラマンスペクトル.赤の生データからSiC基板成分を差し引いたものが青である.緑は,バッファー層のみのラマンスペクトル.(f)Hall効果測定による移動度とキャリア濃度の温度依存性.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.ピークが観察されるのに対し,(0001)面上バッファー層(赤)ではσ*ピークが強く,相対的にπ*ピークが弱い.これは,グラフェンのsp 2結合に対して,バッファー層中の炭素がsp 3結合を顕著に有することを示している.この界面では,SiC(0001)表面の単位格子を30度回転させて6√3×6√3倍した周期が,グラフェン単位格子の13×13倍とほぼ等しくなることから,バッファー層は6√3×6√3R30層とも呼ばれ,この周期に対応する超格子反射が図3cのLEEDパターン中には観察される.図3dに示すグラフェン試料のARPESスペクトルからは,図1cに模式的に示したような単一のDiracコーンが明瞭に観察される.ここで,Dirac点はフェルミエネルギーに対して約-0.4 eVの位置に存在しており,これはグラフェンが電子ドープされていることを意味している.29)また,バンドの傾きから見積もったフェルミ速度は,約1×10 6 m/sであり,これはグラフェン中の電子が秒速1,000 km(光速の約1/300)で移動できることを示している.ここで,LEEDおよびARPES実験におけるプローブサイズは数十~数百μmであり,これらの結果は37