ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
日本結晶学会誌61,35-42(2019)特集電子線で何が観測できるかエピタキシャルグラフェンの構造と物性名古屋大学大学院工学研究科乗松航Wataru NORIMATSU: Structural and Physical Properties of Epitaxial GrapheneEpitaxial graphene growth on SiC is the only technique to obtain wafer-scale single-orientationgraphene directly on the insulating substrate. It is then suitable for electronics applications.Understanding the growth mechanism of graphene is necessary for obtaining high-quality graphene. Inorder to improve the electronic structure of graphene, interface engineering is important. Here, recentresearches including the growth mechanism and the interface engineering, mainly revealed by electronmicroscopy are reviewed.1.はじめにグラフェンは,厚さ1原子層の炭素物質である.図1aおよび図1bにその構造および高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)像を示す.グラフェンは蜂の巣構造をもち,単位格子中に2個の炭素原子をもつ.20世紀においては,純粋な二次元物質は安定に存在し得ないと言われてきた.しかしながら,2004年にNovoselovとGeimらがグラファイト単結晶からスコッチテープを用いてグラフェンを機械的に剥離し,その電界効果特性をScience誌に発表してから,急速に注目を集めるようになった.1)グラフェンのエネルギーバンド構造を図1cに示す.2)その特徴は,逆空間のK点付近で線形のバンド分散をもつことである.この線形バンド分散は,質量をゼロとしたときのDirac方程式に従う粒子の分散と等価であることから,このバンドはDiracコーンと,コーンの頂点はDirac点と,Dirac点のエネルギーはDiracエネルギーE Dと呼ばれる.この線形バンド分散のため,グラフェン中には本質的にはキャリアが非常に少なく,電界効果でキャリア密度を大きく制御することができる.さらに,フェルミ速度が大きいために高い移動度をもつことがグラフェンの特徴である.実際,量子ホール効果が室温でも観測され,室温で140,000 cm 2 /Vsもの高移動度が報告されるなど,究極の二次元電子系として多くの新しい物理現象が報告された.3)-5)応用面でも,移動度が高いことはグラフェンが電界効果トランジスタの材料として適していることを示している.一方で,バンドギャップがないこともまた特徴である.このように,グラフェン研究は2004年から急速に広がり,2010年には前述のNovoselovとGeimがノーベル物理学賞を受賞した.それ以後も,その研究はますます発展を見せている.図1dには,“graphene”をタイトルにもつ論文の年ごとの出版数を示している.6)図から,2010年以降もその数は増え続け,現在では毎日50本以上の論文が出版されている.ヨーロッパでは,GrapheneFlagshipと呼ばれる10年間(2013年~)1,000億円の巨大プロジェクトが進行中である.7)とはいえ,ノーベル賞からすでに8年以上が経過し,今後の展開を考える転換期に来ているとする見方もある.本稿では,主に電子線を構造評価ツールとして明らかにされた,グラフェン研究,特にエピタキシャルグラフェンの研究についての経緯と最近の動向について解説する.2.グラフェンとエピ・グラフェン図1グラフェンの構造と電子状態.(Structure and electronicpropertiesofgraphene.)(a)グラフェン構造モデル.(b)グラフェンのHRTEM像(FFT処理後).(c)グラフェンのエネルギーバンド構造.(d)“graphene”をタイトルにもつ論文の年ごとの出版数.日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)グラフェン研究の初期において,多くの研究はグラファイト単結晶からの機械的剥離法によって得られたグラフェンを用いて行われた.その後,応用を意識したグラフェン成長法に関する研究も進んできた.化学気相成長(CVD)法では,炭素を含むガスを銅などの触媒金属上で分解させ,グラフェンを形成する.8)この手法では,比35