ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
電子励起効果によるアモルファス物質の低温結晶化4.おわりに図7電子線照射に伴う2体分布関数の第1ピークの変化.(Changes of the first peak in the atomic pairdistributionfunction as a function of fluence.)数値は照射量を示しており,単位は10 22 e/cm 2である.9.6×10 22 e/m 2以上の照射では,アモルファス母相中33に結晶相が出現している.(文献)より転載)に示す.0および14×10 22 e/m 2は,それぞれ初期状態のアモルファスおよび最終状態のγ相から得られたもので,図6に対応する.電子線照射の初期(照射量:1.2×10 22 e/m 2)では,第1ピークは未照射試料よりもいったん大きくなるが,さらに照射を施すとピークは低くなる.3.0×10 22 e/m 2の電子線を照射した試料の電子回折図形はハローパターンを呈するのに対し,7.2×10 22 e/m 2の電子線を照射した試料ではデバイシェラーリングが出現することが確認された.これより,照射量が大きくなるに伴いピークが低くなる.同様なアモルファス構造の変化は,加速電圧300 kVでの照射においても見られた.多根らは,アモルファスAl 2O 3中の基本構造ユニットと密度の関係を分子動力学法により調べている.37)その結果,アモルファスAl 2O 3の基本構造ユニットとしてはAlO 4,AlO 5が多数存在するのに対し,AlO 6はわずかであること,密度が大きくなると(結晶状態に近づくと)AlO 4ユニットの割合は減少するのに対し,AlO 6ユニットは増加することを見出している.結晶化に際してはAlO 5のユニットが消失するが,その際のボンドの切断とAlO 6への再配列が照射初期の2体分布関数に見られた第1ピークの増大に対応していると考えられる.γ-Al 2O 3はAlO 4(minor)とAlO 6(major)で構成され,ボンド長の短い前者と長い後者の2つのピークに分離する.照射量の増大,すなわち結晶化の進展に伴ってピークが低下するのは,分離した2つのピークが重なってブロードになっているためと考えられる.本稿では,電子線照射によるアモルファス物質の結晶化に関する最近の研究成果について報告した.アモルファスには結晶のような長周期の規則性が存在しないため構造解析は困難で,照射環境下におけるアモルファス自身の構造変化はほとんど調べられていない.われわれは,電子回折法を用いて動径分布解析を行った.本手法では,高エネルギー電子線の短い波長により,逆格子空間の広い領域にわたって散乱情報を取得することが可能である.その結果,照射前のアモルファスにおける構成元素の結合状態および照射に伴うアモルファスの構造変化を検出することができた.本研究では,制限視野電子回折法により,比較的広い領域からのアモルファスの平均構造情報を取得している.一方,電子顕微鏡では原子スケールの極細束ビームを発生することが可能で,クラスターの検出に有効である.実際,平行度の高い高輝度のオングストロームビームを用いることにより,アモルファス中のナノスケール不均一性の検出に成功した事例も最近報告されている.38),39)結晶化のメカニズムに関しては,加速電圧が小さい程,アモルファスGeSnおよびAl 2O 3の結晶化に必要なフラックスや照射量が小さくなることを見出し,本物質の結晶化に際して電子励起効果が重要な役割を演じていることを明らかにした.照射時の温度上昇は小さく,非熱的過程により結晶化が低温で誘起されることを確認した.電子励起効果を利用した材料創製は非平衡状態の原子配列を低温で合成するのに有効であり,電子線だけでなく放射光を用いた研究成果も報告されている.40)謝辞GeSnの研究に関しては,木村俊樹氏(九州工業大学大学院修士課程,現:日立金属),東山将士氏(九州工業大学大学院修士課程),奥川将行氏(大阪府立大学大学院博士課程)の協力を得た.Al 2O 3の分子動力学シミュレーションには多根正和氏(大阪大学産業科学研究所准教授)に協力頂いた.電子線照射実験は,大阪大学超高圧電子顕微鏡センターにおける「文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業微細構造解析プラットフォーム(大阪大学ナノテクノロジー設備供用拠点)」の支援を受けて実施された.本研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究(B)(課題番号:16H04518)および九州工業大学「他大学との研究施設利用などによる共同研究支援事業」の支援を受けた.文献1)石野栞:照射損傷(原子力工学シリーズ8),東京大学出版会(1979).日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)33