ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

石丸学,仲村龍介(a)(b)(c)(d)50nm図4電子線照射に伴うアモルファスAl 2O 3の構造変化.(StructuralevolutionofamorphousAl2O3underelectron-beam irradiation.)(a)未照射,(b)1.8×10 25e/m 2,(c)3.6×10 25 e/m 2,(d)4.5×10 25 e/m 2照射試33)料.照射時の加速電圧は200 kVである.(文献より転載)図5結晶化に必要な電子線照射量の加速電圧依存性.(Critical electron fluence for crystallization as afunction of the energy of incident electrons.)加速電圧が低くなると,結晶化に必要な照射量は小さく33なる.(文献)より転載)ファス構造を有することがわかる(図4a).これに1.8×10 25 e/m 2の電子線照射を施すと,結晶による回折コントラストが見られ,回折図形中にもデバイシェラーリングが出現する(図4b).さらに,照射を施すとボイドの形成が顕著になるとともに(図4c),結晶粒が粗大化する(図4d).得られた結晶はγ相で,熱処理試料のものと一致する.電子線照射によるアモルファスAl 2O 3の結晶化は,ほかの研究者によっても報告されている.34),35)Murrayらは,照射時の温度上昇が結晶化に寄与していると指摘している.34)しかしながら,アモルファスAl 2O 3は700℃で1時間の熱処理を施してもアモルファス構造を保っており,29)照射時の温度上昇で結晶化が起こるとは考え難い.実際,アモルファスAl 2O 3薄膜にインジウム(融点:157℃)を蒸着して電子線照射を行ったところ,Al 2O 3の結晶化が起こっても,インジウムは融解しないことが確認された.33)すなわち,電子線照射下でのアモルファスAl 2O 3の結晶化は,温度上昇で生じたものではないと結論できる.図5は,結晶化に必要な照射量のエネルギー依存性を示したものである.縦軸はログスケールであるが,エネルギーが低いほど結晶化に必要な照射量は小さくなり,結晶化が起こりやすくなっていることがわかる.加えて,電子線照射において結晶Al 2O 3中のアルミニウムおよび酸素のはじき出しに必要な加速電圧は,それぞれ200および290 kVであり,36)アモルファスAl 2O 3においても100kV以下の加速電圧では,はじき出しは起こらないと推察される.以上より,アモルファスAl 2O 3の結晶化は電子励起効果により引き起こされていると考えられる.一方,高エネルギー側では結晶化の照射量が飽和しているが,電子励起による結晶化とはじき出しによるアモル図6照射前後の2体分布関数.(Atomic pair-distributionfunctions before and after electron-beam irradiation.)第1ピークの高さは結晶化後に低くなっており,33通常とは異なる挙動を示す.(文献)より転載)ファス化が競合していることを示唆している.結晶化に伴う構造変化を,電子線動径分布解析法により調べた.図6は,アモルファスAl 2O 3に対して100 kVの電子線を1.4×1023e/m2照射したときの2体分布関数g(r)=―――G(r)4πrρ0+1(ρ0:原子の数密度)の変化である.照射前試料のg(r)では顕著な第1ピークと2つに分かれた第2ピークが見られるが,これらはそれぞれAl-O,O-O,Al-Alの結合に相当している.O-OおよびAl-Alに対応するピークは結晶化に伴い顕著になり,長距離のピークも出現している.第1ピークの高さは密度にも影響を受けるが,結晶では規則性が向上するため一般にピークは上昇する.これに対して図6では結晶化後に第1ピークが低くなっており,通常の挙動とは異なる.照射に伴う連続的な構造変化を明らかにするため,2体分布関数における第1ピークの拡大したものを,図732日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)