ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

日本結晶学会誌61,29-34(2019)特集電子線で何が観測できるか電子励起効果によるアモルファス物質の低温結晶化九州工業大学大学院工学府物質工学専攻石丸学大阪府立大学大学院工学研究科マテリアル工学分野仲村龍介Manabu ISHIMARU and Ryusuke NAKAMURA: Low Temperature Crystallization ofAmorphous Materials by Electron Excitation EffectsSince irradiation often induces atomic configurations far from the equilibrium state, knowledgeof structural changes under radiation environments is of technological importance for controlling thephysical properties of materials. In addition, the processing temperature for synthesizing materials canbe significantly reduced by athermal processes of irradiation. In this article, we report electron-beaminducedcrystallization processes of amorphous germanium-tin and alumina studied by transmissionelectron microscopy. In both cases, critical fluence and flux for inducing the crystallization becamesmall with decreasing the accelerating voltage, suggesting that electron excitation processes play animportant role for the amorphous-to-crystalline phase transformation.1.はじめに材料の物理的性質は,原子配列やわずかに添加した機能元素の分布に強く依存するため,機能発現のメカニズムを明らかにするには析出物や欠陥などの構造情報および組成や結合状態などの化学的情報の取得が必要不可欠である.透過電子顕微鏡法を中心とした電子顕微鏡技術は,これらの情報を対象物の同じ場所からナノスケールという高い空間分解能で,高精度に同時に測定することができる.このため,新規機能性材料・構造材料の研究開発には欠かすことができない重要な技術の1つとなっている.材料評価の側面とは別に,電子顕微鏡は照射環境下における材料挙動の調査にも利用されている.材料が電子線,イオンビーム,中性子線などの照射場に曝されると欠陥が導入され,欠陥蓄積に伴い機械的性質や電気的性質などの材料特性が劣化する.このため,照射環境下に曝される原子力材料では,照射場と物質の相互作用に関する研究が古くから行われている.1)さまざまなエネルギー粒子のうち,イオン照射の場合は比較的大きな欠陥(カスケード)が形成されるのに対し,電子線照射では格子間原子や空孔などの比較的小さな点欠陥が材料に導入されるため,照射挙動の本質に迫ることができる.2)-5)加えて,電子顕微鏡では電子線照射下における構造変化を直接観察することができるため,照射エネルギー,フラックス,温度などの外部因子を変化させ,欠陥形成や挙動の詳細を原子スケールで調べることが可能である.以上は,照射損傷という負の側面を明らかにする研究日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)であるが,例えば半導体への不純物ドーピングのように,量子ビーム技術は機能制御や材料創製という正の側面にも利用されている.特に,照射場を利用すると,新規機能性の可能性を秘めた平衡状態から離れた原子配列を実現することができる.われわれは,さまざまなセラミックスおよび半導体材料の照射誘起構造変化を,透過電子顕微鏡法により調べている.6)-9)本稿では,電子線照射によるアモルファス物質の低温結晶化に関する最近の研究成果について紹介する.2.高濃度のSnを含むGeSn結晶の低温合成ゲルマニウム(Ge)にスズ(Sn)を添加したGeSnは,SiやGeよりも高いキャリア移動度を示すため,高性能薄膜トランジスターのチャネル材料への応用が考えられている.また,Sn濃度が10 at.%程度になると間接遷移型から直接遷移型にバンド構造が変化する.このため,高効率太陽電池やIV族半導体ベース発光素子への展開も期待され,日本を中心に精力的な研究がなされている.10)この際,Ge結晶中へのSnの固溶度は1 at.%程度であるため,過飽和に添加されたSnが熱処理に伴い析出することが問題となっている.結晶Geに固溶限以上のSnを導入するため,分子線エピタキシーなどの非平衡プロセスが用いられている.アモルファスからの結晶化技術は,通常の手法では得ることが難しい材料組織や原子配列を実現することができる.例えば,約10 nmのサイズを有する非常に均一なナノクリスタルからなるFe系軟磁性合金(FINEMET R)11)は,アモルファスリボンの結晶化により作製されている.GeSnに関しても,アモルファスの結晶化により平衡状29