ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
日本結晶学会誌61,23-28(2019)特集電子線で何が観測できるか超高速時間分解電子線回折法のアモルファス状態の水への応用岡山大学大学院自然科学研究科羽田真毅Masaki HADA: Ultrafast Time-resolved Electron Diffraction Applying for AmorphousH 2 O MoleculesTo apply ultrafast time-resolved electron diffraction measurements for amorphous H 2 Omolecules, we developed a system to deposit H 2 O molecules onto ultrathin silicon nitride substratesin time-resolved electron diffraction apparatus. The subtracted electron diffraction patterns beforeand after the ultraviolet photoexcitation represent O-H bond dissociation via multiphoton absorptionand charge transfer, which trigger ionization and intermolecular disorder in the amorphous H 2 O.The results obtained in the experiments illustrate light-matter and matter-matter interactions inamorphous H 2 O molecules.1.はじめに超高速時間分解電子線回折法は,時間的に同期された光パルスと電子線パルスを用い,物質のフェムト秒(10-15秒)からピコ秒(10-12秒)の過渡的な構造を計測する手法である.1),2)光パルスは物質中に反応を誘起するために,電子線パルスは回折図形を得て過渡的な構造を決定するために用いられる.超高速時間分解電子線回折法は,無機物,有機物を問わず単結晶試料や多結晶試料中の光照射下における過渡的な構造を得るために用いられてきた.3)-6)われわれは,この測定手法をアモルファス試料に応用する.通常,アモルファス試料には周期性がないため,回折法ではブロードなハローパターンが生じ,有益な情報はほとんど得られない.われわれは光励起により物質中の原子・分子の運動を積極的に用いることにより,アモルファス試料から有益な情報を引き出すことに成功した.7)すなわち,図1のように光照射前後の回折図形を差分することにより回折図形の変化量のみを浮かび上がらせる手法を考案し,8),9)これをアモルファス試料に適応した.本稿では,アモルファス試料として水分子を用いた例を紹介する.水は,最も身近である物質であるにもかかわらず,自然界のほかの物質と比べ特異な物性を示し,そのためわれわれの生活環境において重要な役割を果たしている.この水の物性は,水素結合ネットワークにより支配されており,10)-15)水素結合ネットワークの構造や動的挙動は,分光法や回折法,計算的手法を用いて広く計測されている.16)-19)水素結合ネットワークは,フェムト秒からピコ秒の時間スケールで動き回っているため,20),21)超高速時間分解分光法や回折法が水の構造やダイナミクスを日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図1電子線回折の差分法.(Subtracted images of electrondiffraction.)アモルファス材料のような非晶質から電子線回折図形と光照射の前後を差分することによって得られる差分図形.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.知るために強力なツールとなる.フェムト秒の時間分解能をもつ赤外光域の過渡吸収法により,水の結合破断のダイナミクスの観測が行われ,20)-30)またピコ秒の時間分31解能をもつX線回折法)32),33や電子線回折法)により,氷から水への光誘起相転移現象の観測が行われている.しかし,水の構造や構造ダイナミクスは主に分子動力学シミュレーションが先行しており,34)-39)実験的なデータは不十分であるというのが現状である.特にアモルファス状態の水の構造や構造ダイナミクスの計測例はわれわれの知る限りない.われわれは,時間分解電子線回折装置内にアモルファス状態の水薄膜を窒化シリコン薄膜上にその場で作製する機構を導入し,アモルファス状態の水分子の紫外線照射下における構造ダイナミクス計測を行った.水の構造および構造ダイナミクスを計測するためには,超高速で動く分子の動きを捕え,また軽元素に敏感である電子線を用いることが有効である.すなわちフェムト秒からピコ秒の時間分解能をもつ超高速時間分解電子線回折法が非常に有効な手法である.23