ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
木本浩司図5Si[211]入射のADF像観察例.(ADFimagesofSialong[211]under different conditions.)(a)画素滞在時間が長い場合,(b)画素滞在時間が短い場合,(c)画素滞在時間を短く複数回取得して積算した場合.性と元素識別能の観点から構造解析に有効である.以下ADF像を中心に,高精度化・高感度化に関するわれわれの試みと,応用例を紹介しよう.4.1高速多重計測によるSN比の向上STEM像の画素滞在時間と画素数から1画像の取得に必要な時間を計算すると,一般に数秒以上である.画素滞在時間を長くすれば,SN(signal-to-noise)比の良い画像が得られるが,観察中の試料位置のドリフトなどにより画像が歪み,位置精度が低下する(例えば図5a).他方,画素滞在時間を短くすれば,信号強度が低くなり,高空間分解能の構造情報が,量子ノイズレベル以下となる(図5b).プローブ径で期待される空間分解能を実現するためには,目的とする高周波信号が,量子ノイズよりも十分大きい必要がある.われわれは画素滞在時間を短くしたSTEM像を多重計測し,計測中にドリフトを補正することにより,高いSN比で観察を行っている.17)図5にSi[211]入射のADF像の観察例を示す.ドリフトを補正しながら積算することで,量子ノイズに埋もれていた60 pm程度の情報を確認できる(図5c).4.2ピコメーター精度の結晶構造観察Incoherent imaging近似の下では,原子コラムはADF像中に輝点として観察され,輝点は物体関数と装置関数とのコンボリューションで表される.物体関数はδ関数として近似される場合もあるほど小さい.結晶中の電子の伝搬を計算するマルチスライスシミュレーション18)において,原子の静電ポテンシャルプロファイルは10 pm図6 TmFeO 3試料中のTmおよびFeの原子位置計測例.(Example of atomic position measurement of Tm andFe sites.)(a)計測したADF像と原子位置(○で示した).白線枠内はマキシマムエントロピー法でデコンボリューションした像.(b)原子位置計測結果を単位胞に投影した結果.計測結果のばらつきが数pm程度になっている.(FWHM)程度である.したがって,原子位置の特定精度はプローブの形状とその伝搬によって決まるといって良い.実験で得られたADF像が十分なSN比を有していれば,プローブ形状をデコンボリューションすることにより,高い精度で輝点の位置を同定できる.隣接する原子コラムがADF像で分解されていれば,位置の特定精度は,プローブ径で決まる空間分解能よりも十分に高い.一例として,図6に球面収差補正を有さない装置を使って行った計測結果を示そう.19)プローブ径は半値幅で110 pm程度であるが,デコンボリューションにより輝点の位置を高精度に求め,5 pm程度のばらつきで輝点の位置を求めている.この精度があれば,10 pmオーダーのイオン半径の違いによる原子位置の違いが検出できる.20)球面収差補正装置を用いればさらに高精度に計測することが可能である.4.3ドーパントの計測ドーパントなどの微量元素の観察は,半導体のみならずさまざまな機能性材料の評価に重要である.ドーパント元素の原子番号が母結晶と異なれば,ADF像で単原子ドーパントを検出できる.ただし微弱な単原子の信号を捉えるためには,高いSN比の画像が不可欠である.一例として白色LED蛍光体SiAlON中のEuドーパントを計測した例を図7に示す.21)この材料はβ-Si 3N 4構造を有し,c軸から投影すると,直径0.52 nmのSi-Nが作るトンネルが蜂の巣状に配列している.BF像ではドーパントを検出することはできないが(図7a),同一視野を観察したADF像では,そのトンネルの中にあるEuドーパントを検出できる(図7b).BF像のコントラストが膜厚に依存して変化することを用いて膜厚を推定し,incoherentimaging近似に基づいてADF像から焦点を推定できる.21)18日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)