ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
走査透過電子顕微鏡像観察による結晶構造解析図3加速電圧40 kVで観察したSTEM-ADF像.(ADFimages observed at an acceleration voltage of 40 kV.)収束半角は31 mrad,右下の挿入図は各ADF像のフーリエ変換図形.響を受けることなく大きな収束角で入射プローブを形成できるようになると,回折収差によるぼけの少ない微小プローブが形成できる.現在,球面収差補正装置と呼ばれ普及しているものは,球面収差などの三次の幾何収差まで補正でき,具体的には2回非点,二次軸上コマ,3回非点,(三次)球面,三次スター,4回非点の収差群が補正できる.ここでの次数は,幾何収差関数で角度の何次関数かを示している.高次収差を考えれば幾何収差は無限に存在する.例えば通常球面収差とは三次のものを指すことが多いが,より高次の五次や七次の球面収差もある.加速電圧が低い場合には波長が長くなるので,原子分解能を実現するためには高次収差を補正できる装置が必要である.現在は五次幾何収差が補正できる装置が普及しつつある.最新の収差補正装置を使った現在の世界最高の空間分解能は加速電圧300 kVで40.5 pmである.2)ここでは五次幾何収差が補正された装置を用いて低加速電圧(40 kV)で観察したADF像を示そう(図3).加速電圧40 kVでは波長λが6 pm(300 kVの約3倍)で,原子分解能を得るためには,高い収束角αが求められる:例えば回折収差を0.61λ/αとすると,α=30 mradで0.12 nm(波長の約20倍)となる.上述のincoherent imaging近似のもとでは,ADF像のフーリエ変換からプローブ径により決まる空間分解能を調べられ,図3ではSiの-224(0.11 nm)が観察されている.高次収差の補正が可能な装置を使えば,低加速電圧でも原子分解能が得られるため,最近では加速電圧を試料損傷の観点から設定する機会が増えてきている.3.3分割型検出器を用いた新たな研究動向従来のSTEM装置では,図2に示すように回折図形上に円形状または円環形状の検出器を設置している.より複雑な形状の検出器を用いてSTEM像を観察する研究は以前よりなされており,13),14)特に近年,多数のセグメントに分割した検出器や,高速カメラを用いてSTEM像を観察する試みが進んでいる.例えば4分割(4つの象限)にした検出器からの信号を用いて微分位相コントラ日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図4原子分解能を有する4D-STEMによるSrTiO 3像観察.(4D-STEM observation of SrTiO 3 specimen withatomic resolution.)スト(Differential Phase Contrast:DPC)を観察し,試料中の静電ポテンシャルを観察する研究がなされている.15)プローブを走査しながら回折図形を二次元検出器で取得する試みは,究極のセグメント化と言えよう.二次元走査(x,y)しながら回折図形I(u,v)を観察して,四次元データI(x,y,u,v)を取得するので,最近ではこの手法は4D-STEMと呼ばれる.一般にSTEM像観察では100μs以下の画素滞在時間(dwell time)であることから,検出器の読み出し速度は1秒間に10,000フレーム以上が必要になる.現在の高速二次元画像検出器では数千フレーム/秒程度の観察が可能になってきており,実用的なレベルに達しつつある.われわれは従来型装置を使って,初めて4D-STEMでの原子分解能を実現した.16)計測中の試料位置ドリフト(0.2 nm/min程度)を補正しながら,1画素当たり0.2秒で計測した結果を図4に示す.実験では64×64点のプローブ位置で合計4096枚の回折図形を各々128×128画素として取得した.4Dデータのサイズは約300 MBである.図4のグラフは散乱角依存性をSr,TiO,Oおよび原子間位置でプロットしたものである.挿入したSTEM画像は取得した4Dデータから実験後に検出範囲を設定して構築した画像で,BF像,ABF像に加え,検出角度範囲をいろいろと変えたさまざまなADF像も観察できる.4D-STEMは今後材料解析に用いられていくことになろう.4.高精度・高感度のADF像観察原子オーダーのプローブ径が実現すれば,それを用いて投影した結晶構造が観察できる.特にADF像は直視17