ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
日本結晶学会誌61,15-22(2019)特集電子線で何が観測できるか走査透過電子顕微鏡像観察による結晶構造解析物質・材料研究機構先端材料解析研究拠点木本浩司Koji KIMOTO: Crystal Structure Analysis Using Scanning Transmission ElectronMicroscopyCrystal structure analysis using scanning transmission electron microscopy(STEM)is brieflyreviewed. The various imaging techniques, such as bright field(BF), annular BF(ABF)and annulardark-field(ADF)are presented. Recent progress in STEM imaging is also described.1.はじめに広義の透過電子顕微鏡法の1つである走査透過電子顕微鏡法(Scanning Transmission Electron Microscopy:STEM)は,収束した微小入射プローブを試料上で走査し,透過電子を輝度信号に変換して微細構造を観察する手法である.1)透過電子をさまざまな検出器で計測することにより,多彩なSTEM像が同時に得られることに加え,電子エネルギー損失分光法やエネルギー分散型X線分光法などと組み合わせた計測も可能である.近年装置の進歩により空間分解能は50 pm以下まで向上しており,2)検出感度においても単原子レベルまで捉えられるようになっている.STEMは,物質・材料研究をささえる基盤ツールとして有効であり,計測手法としての研究開発は現在も進んでいる.本稿ではさまざまなSTEMによる計測手法のうち,STEM像観察を紹介する.まずSTEM像で結晶構造がどのように観察できるか,その概要を述べる.次に球面収差補正装置に代表される最近の装置の進歩について述べる.さらにわれわれが進めている研究として,高精度かつ高感度にSTEM像を観察した例について述べ,最後に定量的に解析した例を述べる.STEM像でどのくらいまで結晶構造が観察できるのかを概観したい.2.STEM像観察手法の概要STEMでは試料で散乱された電子を用いてさまざまな像観察が可能であるが,主に明視野(Bright-Field:BF)像,環状明視野(Annular Bright-Field:ABF)像,環状暗視野(Annular Dark-Field:ADF)像が用いられる.まず典型的な観察例として,GaNの観察例を図1に示そう.これらは同一の視野から観察したもので,同時に計測できる.以下それぞれの画像の特徴を述べよう.STEMのBF像は,TEMの明視野像と同様のコントラストを与え,これは光学における相反定理(reciprocal日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)図1GaNのBF,ADFおよびABF像.(BF, ADF and ABFimages of GaN.)加速電圧300 kVで球面収差補正装置を用いて観察.theory of Helmholtz 3))から説明される.透過波と回折波との干渉により生じる格子縞やFresnel縞なども,STEMによるBF像に現れる.そのためBF像は,動力学的回折効果や対物レンズの位相コントラスト伝達特性により,コントラストの反転が頻繁に起こる.例えば図1aは正焦点(焦点が合った状態)で撮影されたBF像であるが,元素ごとに明暗が異なっており,Ga原子コラムはドーナッツ状のコントラストになっている.BF像は原子が暗点(あるいは輝点)に見える観察条件が限られており,構造直視性に優れているとは言い難い.円環状の検出器で,入射プローブの収束角よりも大きな散乱角の電子を検出したものを,ADF像と呼ぶ.図1bでは原子番号の大きなGaのみが明瞭な輝点として観察されている.特に散乱角度が十分に大きい*場合(High-Angle ADF:HAADF)の強度は,原子番号Zに応じた強度になっているとされており,4),5)元素識別能に優れている.Pennycookらにより詳細に示されたHAADF像のincoherent imaging(非可干渉性結像)近似は,6)実験結果を説明する良い近似である.最も簡単なincoherentimaging近似は,以下のように説明される.プローブ位置*散乱角の大小に厳密な定義はないが,例えば散乱パラメーターs=sinθ/λ=1[A-1]以上の電子を検出した場合には,散乱角が大きいと見なされることが多い.15