ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
STEM-EELSによる局所元素・電子構造解析しい元素について容易にその秩序化を評価することができることがわかる.一方で,図8cに六配位と四配位のBサイト原子直上から得られたスペクトルを示す.層状構造を反映して六配位でMn L 2,3-edgeと四配位でFe L 2,3-edgeが強く検出されていることがわかる.一方で,どちらのサイトにおいてもMnとFeがわずかに検出されていることがわかる.通常,原子分解能STEM-EELSの実験において,このようなプロファイルが得られた場合,このようなわずかな強度が照射している原子カラム中に本質的にわずかに存在しているのか,隣接しているカラムに大多数存在する元素を非局在性により励起してしまったものなのか区別することがきわめて難しい.次に,MnとFeの組成比プロファイルを作成した結果を図8bの下段に示す.EELSではスペクトルの積分強度から2種以上の原子数比を定量することができる.A原子とB原子の原子数比は以下の式に従う.NNABIA(β, ?)σB(β, ?)= ?I (β, ?)σ(β, ?)BA(3)Nは原子数,Iはバックグラウンドを引いたスペクトルの積分強度,σは非弾性散乱部分断面積,βは取り込み角,Δはエネルギー幅である.σは標準試料を用いて実験的に求めることも可能であるが,理論計算により求められた値を用いることも可能である.図8b中段の元素プロファイルは原子直上を極大点とするガウス関数型のプロファイルが得られている.これは元素プロファイルが励起確率分布を表しているためである.一方で,組成比プロファイルでは原子直上でフラットになる台形型プロファイルになっていることがわかる.組成比プロファイルでは各点における組成比が反映されるため,励起強度は異なっても組成比が同じであれば同じ値となる.そのため,組成比プロファイルにおける原子直上のフラットな領域(約2.4 Aの領域)は非局在性による隣接カラムの影響がほとんどない領域だと考えられ,この微小な領域を評価することで隣接原子カラム信号の混在のほとんどないスペクトルが得られると考えられる.そこでこの微小領域での定量値を評価したところ約10%の誤差で組成比を原子分解能で求められることが明らかになった.ペロブスカイト型構造を基本構造とする場合,A-AまたはB-Bカチオン原子間距離は約4 A程度であるため,MnやFeの場合は比較的信号の混在の少ない領域が存在するものと考えらえる(FeとMnのL 2,3-edgeの200 kVにおける非局在性はそれぞれ1.2 A,1.3 A).また,本研究のような台形型組成比プロファイルを得るためには1つの原子カラムを多分割して測定するオーバーサンプリング条件にしなければならない.通常,元素マッピングではEELSスペクトルの取得時間がHAADF信号の取得時間に比べて数桁長いことから比較的アンダーサンプリング条件で行われる場合が多い.しかしな日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)酸素/カチオン比図92.52.01.51.00.50.0246BsiteCaFeO 2.5SrFeO 2.5SrTiO 3LaMnO 38配位数がら,定量評価の場合は本研究のような条件により台形型プロファイルの有無を評価することで信頼性の高い定量結果を得ることができると考えられる.9.2酸素量の定量次に,酸素の定量について紹介する.18)金属酸化物中で酸素は配位子として存在しているため数が多く,投影面内での原子間距離が近いために,STEM-EELS測定では常に信号の混在が深刻となる.図9にペロブスカイト型構造を有するさまざまな材料のpseudo-cubic[100]入射において,A原子カラムまたはBO原子カラム直上から得られた二元素組成比(O/A(B)比)を測定した結果を示す.まず,BO 6八面体に着目と,BOカラム上のO/B比は本来1であるが実験値は大きく外れており本来の組成を反映していないことがわかる.つまり,非局在性により隣接酸素原子が励起されることで酸素量が本来よりも多く見積もられている.一方で,カチオン種によらず組成比と配位数の関係はAサイトとBサイトでそれぞれ異なる相関があることがわかる.カチオン直上での組成比と配位数とに相関がみられる原因として,ペロブスカイト構造群では酸素配位数が変化しても,その基本構造は保持されたまま配位数が変化するためであると考えられる.またA・Bサイトでそれぞれ相関が異なるのは,pseudo-cubic[100]入射においてはA原子カラム中に酸素原子が存在しないため,励起酸素のすべてが非局在性によるものであること,またA-O原子間距離がB-O原子間距離よりも一般的に長いことにより組成比の小さい相関になるためである.また興味深いことに,電子チャネ10A siteLa 2 CuO 4CaFeO 2.5SrFeO 2.5SrTiO 3LaMnO 3LaAiO 3CaTiO 3ペロブスカイト型を基本構造としたさまざまな酸化物における,pseudo-cubic[100]入射でのAサイトとBOサイト原子カラム上から得られた酸素/カチオン比の配位数依存性.(Oxygen/cation ratio as afunction of coordination number on A or B cation sitefor preudo-cubic[100]direction.)121413