ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
治田充貴,倉田博基(a)(b)シャルV(r⊥,E)を用いて,以下のように書き表される.∂σ∂E強度(a.u.)5304πm535 540 545 550損失エネルギー(eV)Apical計算処理後生データPlanar計算処理後生データt2=∫∫ψ⊥z V⊥Edz d2 A 0⊥R hk| ( , , )| ( , )555図7 Inversion処理によるLa 2CuO 4の原子分解能O K-edge.(The spectral changing after inversion processfor O K-edge of La 2CuO 4.)Rr r r(2)mは相対論的な電子の質量,hはプランク定数,kは入射電子の波数,tは試料厚さ,AはR点にある電子プローブで照射された領域である.既知の結晶構造の場合,Ψ(R,r⊥,z)は計算できるため,∂σ/∂E| Rを実験で測定することでV(r⊥,E)を逆算し,原子分解能でのEELSを抽出することができる.6章で紹介したLa 2CuO 4のSIデータに対して,この処理を行った結果を図7に示す.生データでも八面体内のApicalとPlanarサイトを分離した異なる形状のスペクトルが得られている一方で,処理後のスペクトルでは,例えばPlanarサイトの534 eV付近のプレピークがより明瞭になり計算結果に近いスペクトルが得られていることがわかる.このように構造が既知であれば理論計算と組み合わせることで真に原子分解能でのスペクトロスコピーが達成されている.9.ペロブスカイト型構造群における高分解能定量分析9.1カチオン組成比の定量上述のように構造が既知であれば信号の混在の問題を取り除き定量評価することも可能であるが,やはり結晶構造が未知の場合にどう定量評価するのかということ図8(c)b六配位四配位640 680 720損失エネルギー(eV)組成比(%)強度(a.u.)100FeMn8060402000 0.5 1.0nm1.52.0が問題となる.EELS法では組成の定量評価をすることができるが,これまでSTEM-EELSの原子分解能測定では定量値に対する非局在性の効果がきちんと評価されてこなかった.そこで構造が既知の試料をいくつか用いて,原子分解能STEM-EELSにおける定量評価の実験値の信頼性について評価した結果を紹介する.17),18)試料はいずれもSTEMでよく分析が行われるペロブスカイト型構造を基本構造とした金属酸化物を対象とした.図8aにブラウンミレライト構造を有するCa 2Fe 1.07Mn 0.93O 5の[101]入射のHAADF像と投影構造モデルを示す.この材料はイオンサイズや結晶場安定化エネルギーの関係性からMn 3+とFe 3+がそれぞれ六配位と四配位を主に占有した層状構造を取ることが知られている.一方で,MnとFeは完全に秩序化しておらず,それぞれわずかに四配位と六配位サイトに占有する(六配位;Fe:Mn=14.4:85.6,四配位;Fe:Mn=92.2:7.8)ことが中性子回折の結果により報告されている.19)通常,MnとFeをX線回折で区別することは難しいが,中性子では散乱長が大きく異なることからMnとFeのサイト占有率を精度よく決定することができる.一方,EELSではMn(640 eV)とFe(708 eV)のL 2,3-edgeはエネルギー的に十分離れているため区別をつけることができる.図8bにBサイト原子カラム上を通るようにラインスキャンしながら取得したHAADF強度プロファイルとFeとMnのL 2,3-edgeの元素プロファイルを示す.STEM-EELS法ではこのようにX線回折では区別することの難相対組成比(%)Ca 2Fe 1.07Mn 0.93O 5の原子分解能でのFeとMnの組成比プロファイDeterminationル.(of elemental ratio of Feand Mn of Ca 2Fe 1.07Mn 0.93O 5.)(a)Ca 2Fe 1.07Mn 0.93O 5の[101]入射のHAADF像(a)の点線上から得られた,(b)上段:HAADF強度プロファイル,中段:FeとMnのL 2,3-edge強度プロファイル,下段:FeとMn2成分での組成比プロファイル.(c)各Bサイト直上から得られたスペクトル.12日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)