ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
治田充貴,倉田博基る.各スペクトルの顕著な違いとして,どちらの結晶においても六配位サイトのスペクトルではFe-3dバンドとの混成由来のピークが分裂しているのに対して,四配位サイトでは分裂していない.これは六配位サイトでは結晶場分裂が大きく,四配位サイトでは小さいことに対応しており,この傾向はサイト分解されたFe L 2,3-edgeにもピークの分裂として同様に観察される.次に,スペクトル強度に着目する.O K-edgeにおけるスペクトル強度は非占有2p軌道がどれだけ空いているかに対応するが,言い換えればカチオンとの共有結合性がどれだけ強いかを表していることになる.CaFeO 2.5ではFe-3dバンドとの混成由来のピーク積分強度(530 eV付近)に各サイト間でほとんど違いがみられなかったが,SrFeO 2.5の場合四配位サイトのスペクトル強度が大きく,共有結合性が大きいことを示唆している.ここで,図4bに各Fe-O間の結合長を示す.Fe 3+はd 5電子配置でありヤーン・テラーイオンではないが,結晶構造を見ると八面体が積層方向に引き伸ばされていることがわかる.第一原理計算の結果,O2-2pとFe Tet-3d電子間での共有結合性がO2-2pとFe Oct-3d電子間やO1-2pとFe Oct-3d電子間のものと比べて強いことが明らかとなり,八面体が層方向に引き伸ばされる原因の1つであることが明らかとなった.しかしながら,O2成分は四配位サイトと六配位サイト両方の実験スペクトルに反映されるため,この違いを検出することができない.したがって,実験に表れている違いはO3サイトの共有結合性の強さであることが明らかとなった.6.原子分解能混成軌道マッピング次に,SI法を用いた二次元電子状態マッピングについて紹介する.9),10)図5に高温超伝導銅酸化物の母結晶であるLa 2CuO 4のHAADF像と各元素による原子分解能元素マップならびにO K-edgeの微細構造を使った酸素の状態マッピングを示す.上述したようにEELS信号は非局在化しているため,実験的にはすべての画素点においてLa M 4,5-,Cu L 2,3-,O K-edgeの強度が検出されるが,二次元マップにすることで励起確率強度マップとして原子分解能マッピングを得ることができる.またO K-edgeの各ピークを使って作製した微細構造マップでは,同じ酸素という元素でもカチオンとの混成軌道の違いを反映してコントラストが異なるマップが得られている.特にこの材料の場合もCu 2+を有する歪んだ八面体はヤーン・テラー効果を起こしており図3bと同様の結晶場分裂を起こしている.そのため,Cu-3dとの混成由来のプレピークAのみを用いたマッピング(図5g)ではCuO 2面の酸素が特に明るくなり異方的なコントラストを示している.つまり,Cuに1つ存在する3dホールがCuO 2面に局在化していることが酸素の混成軌道マップに反映され(a)LaCuO(c)Apical O1PlanarO2強度(a.u.)(b) O K-edgeB CD O1CD E O2A530 535 540 545 550 555損失エネルギー(eV)HAADF La-M 4,5 Cu-L 2,3(d) (e)O-K A:Cu-3d B:La-5d(f) (g) (h)C:La-5d/4f D:Cu-4p z E:Cu-4p xy(i) (j) (k)図5 La 2CuO 4における酸素原子の混成軌道マッピング.(Hybridization state mapping of oxygen in La 2CuO 4.)(a)La 2CuO 4の構造モデル.(b)実験O K-edge.(c)HAADF像.(d-f)元素マッピング(g-k)O K-edgeの各ピークを用いた混成軌道マッピング.ている.このように酸素を用いた電子状態マッピングでは,どの原子と化学結合しているのか結合の手の種類を反映したマップが得られ,Cuの3dホールの空間的異方性をも反映した像を得ることができる.7.原子分解能ホールマッピング次に,電子状態マッピングの別の例として銅酸化物高温超伝導体におけるホールの空間分布を原子分解能で可視化した例を紹介する.11)La 2CuO 4にSr 2+をドープしたLa 2-xSr xCuO 4はホールドープ型超伝導酸化物として非常に有名な材料である.XASやEELSでは非占有バンドがスペクトルに反映されるため,非占有バンドとしてドープされたホールそのものをスペクトルで測定することができる.これまで,これら分光法の偏光特性を利用したホールの異方性が議論されてきたが,12)XASでは原10日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)