ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1
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日本結晶学会誌Vol61No1
日本結晶学会誌61,7-14(2019)特集電子線で何が観測できるかSTEM-EELSによる局所元素・電子構造解析京都大学化学研究所治田充貴,倉田博基Mitsutaka HARUTA and Hiroki KURATA: Local Elemental and Electronic StructureAnalysis Using STEM-EELSCombination of scanning transmission electron microscopy and electron energy-lossspectroscopy can achieve atomic level spectroscopy. However, it is, in principle, difficult to extractthe local information with atomic resolution in the truest sense due to the physically limited specialresolution caused by delocalization of inelastic scattering. Here, we introduce recent high spatialresolution elemental and electronic structure analyses including the example of pure atomic resolutionfor transition metal oxide.1.はじめに現在の電子顕微鏡法は原子配列を直接可視化できることはもちろん,元素種や電子状態をも原子分解能で測定できるところにまで装置開発が進んでいる.それを可能にする手法が走査型透過電子顕微鏡(ScanningTransmission Electron Microscopy:STEM)による高角円環暗視野法(High-Angle Annular Dark-Field:HAADF)と電子エネルギー損失分光法(Electron Energy LossSpectroscopy:EELS)の組み合わせSTEM-EELS法である.本稿では,このSTEM-EELS法を用いた高空間分解能分析について,遷移金属酸化物を対象に,著者のこれまでの研究について紹介する.2.STEM-EELS法図1にSTEM-EELS法の模式図を示す.まずSTEM法では電子線を集束レンズにより原子1個分程度に細く絞り,試料上を走査させる.このとき,入射電子線は試料原子内の原子核からのクーロン相互作用により散乱される.HAADF-STEM法では特に高角度に散乱された電子(主に熱散漫散乱電子)のみを円環検出器で検出し,各試料位置における検出強度を二次元画像化する.1)HAADF法では非干渉性の原子直視型の像が得られるため,その直感的な解釈のしやすさから従来の高分解能TEM像に代わる手法として非常に多くの研究に用いられている.HAADF法の空間分解能は主にプローブサイズによって決まるが,1990年代後半にレンズの球面収差を補正する技術が達成されたことにより,2)sub-Aの空間分解能が実現されるようになっている.これにより最先端の電子顕微鏡ではボーア半径以下の空間分解能が達成されている.3)一方,試料に電子線を照射すると,入射電子と試料内電子とのクーロン相互作用により,電子励日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)集束レンズ試料円環検出器分光器二次元検出器図1 STEM-EELS法の模式図.(Schematic diagram ofSTEM-EELS.)起を伴う非弾性散乱が起こる.この元素・電子構造の情報を豊富に含む非弾性散乱電子は低角散乱であり,円環検出器のちょうど内側をすり抜ける.そこで試料下面に分光器を設置することでEELSスペクトルを得ることができる.そのためSTEM-EELS法ではHAADF像信号とEELS信号を同時に取得することができる.さらに,画素点ごとにHAADF信号とEELSスペクトルを取得していき三次元データキューブを作製する手法をスペクトラムイメージング(SI:spectrum imaging)法という.SI法では各エネルギーチャンネルの空間マップを作ることで元素マップを作製することができる.この手法は従来のTEM-EELS法で問題となっていた色収差の問題がなく,原理的に空間分解能が高い.2007年には原子分解能元素マッピングが報告されており,4)高分解能での元素・電子状態分析が盛んに行われている.さらに近年ではモノクロメーターの開発も進んでおり,電子顕微鏡の利点7