ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

寺内正己のではないかと考えている.この段階である程度の結果が得られれば,物質開発へのフィードバックが格段にスピードアップできるからだ.金属でも絶縁体でも測定できるという特徴を活かし,いろいろな分野で試していただき,その応用の可能性が広がることを期待したい.本稿では超軟X線とも呼ばれる低いエネルギー領域の解析例について紹介した.一方,遷移金属元素の価電子状態を反映するL発光を含めた1 keV程度までは,汎用SXESで測定できるようになってきている.これら遷移金属元素への適用例については,別の機会に紹介したい.謝辞図6NaドープしたCaB 6結晶の結合電子状態マッピングの例.(Spectral mapping images of Na-doped CaB 6bulk specimen.)(a)B-K発光全強度(170~188eV)の空間分布(元素分布に対応),(b)B-K発光の上端部分(187~188 eV)の強度の空間分布図.(b)中のAとBに対応したスペクトルを(c)に示す.(b)の強度分布図は,B原子の価電子量に起因した化学シフトマッピングに対応する.し,その影響でBのK殻の束縛エネルギーが大きくなったこと(ケミカルシフト)が原因と考えられる.B-K発光は,価電子帯2p電子のK殻(1s)への電子遷移に伴う発光であり,K殻のケミカルシフトが(b)のスペクトル位置の違いを生じさせる.すなわち,(b)の強度分布図は,B原子の価電子量に起因したケミカルシフトマッピングに対応する.この実験結果は,高エネルギー分解能での軟X線スペクトルマッピングと適切なエネルギー選択により,元素信号だけではなく,p型,n型という半導体物性のマッピングが可能であることを示している.5.終わりに軟X線発光分光強度が弱く,かつ,物質に吸収されやすいことから十分なS/Nを得るのが難しく広く利用されてこなかったが,最近の測定装置技術の進歩により汎用電子顕微鏡に装着して利用できるようになった.電子顕微鏡での分光技術の代表格であるEELSが薄膜試料を用いたナノスケール空間分解能を有する分光技術であるのに対し,汎用化したSXESはバルク試料を用いた中程度の空間分解能(1μm程度)での分析技術である.結合電子のエネルギー状態を直接的に調べられるというメリットがあり,TEM-EELSを適用する前に,EPMA/SEM-SXESで分析するというのも重要な使い方になるアモルファス窒化カーボンは,防衛大学校の青野祐美先生(現鹿児島大学)との共同研究である.また,NaドープCaB 6については,長岡技術科学大学の武田雅敏先生との共同研究である.なお,これらの研究の一部は物質・デバイス領域共同研究拠点:人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンスの支援のもと行われた.文献1)H. Takahashi, et al.: JEOL News 49, 73(2014).2)H. Takahashi, et al.: IOP Conf. Series: Materials Science andEngineering 109, 012017(2016).3)Y. Sato, et al.: Journal of Applied Physics 112, 074308(2012).4)O. L. Krivanek, et al.: Nature 514, 209(2014).5)M. Terauchi: Chapter 7 in Transmission Electron MicroscopyCharacterization of Nanomaterials, ed. Kumar C S S R(Springer-Verlag), 287(2014).6)M. Terauchi, et al.: Microsc. Microanal. 22(Suppl.3), 70(2016).7)寺内正己:セラミックス34, 81(2019).8)S. Ishii, et al.: Microscopy 67, 244(2018).9)S. Nitta, et al.: Journal of Non-Crystalline Solids 227-230, 655(1998).10)Y. Iwano et al.: Japanese Journal of Applied Physics 47, 7842(2008).11)M. Terauchi and Y. Sato: JEOL NEWS 53, 30(2018).12)M. Takeda, et al.: J. Solid State Chemistry 179, 2823(2006).13)H. Kuribayashi, et al.: Abstract of ISBB-18, 148(2014).プロフィール寺内正己Masami TERAUCHI東北大学多元物質科学研究所Institute of Multidisciplinary Research for AdvancedMaterials, Tohoku University〒980-8577仙台市青葉区片平2-1-12-1-1 katahira, Aoba-ku, Sendai 980-8577, Japane-mail: terauchi@m.tohoku.ac.jp最終学歴:1988東北大学大学院理学研究科博士後期過程専門分野:電子線分光・電子回折6日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)