ブックタイトル日本結晶学会誌Vol61No1

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概要

日本結晶学会誌Vol61No1

軟X線発光分光の基礎とその応用(a)(b)図5(a)アモルファス窒化カーボン膜(a-CNx)から測定したC K発光スペクトル(二次回折光).N-K(3)は,窒素K発光スペクトルの三次回折光.比較のため,Diamond,Graphite,アモルファスカーボン(a-C)の測定例も示す.a-CNxのC-K発光スペクトルには,sp 2 -σ結合(A),sp 3 -σ結合(B),π結合(C)の3つの構造が観察される.(b)電気抵抗率の異なる(窒素含有量の異なる)膜から測定したC-K発光スペクトルの比較.8)((a)C K-emission 2 ndorder spectra of a-CNx, a-C, graphite, and diamond.The spectrum of a-CNx shows a coexistence of sp 2 -Cand sp 3 -C bonding in the material.(b)Comparison ofa-CNx films with different x. A larger x causes a largersp 3 -C bonding. 8))(3)は,窒素K発光スペクトルの三次回折光(K発光エネルギーの1/3のエネルギー位置)である.比較のため,Diamond,Graphite,アモルファスカーボン(a-C)の同条件での測定結果も示す.8)測定には,汎用のEPMA-SXES装置を用いた.a-CNx膜は光伝導や発光特性を示し,その伝導度や発光エネルギーが窒素含有量xでコントロールできることから,デバイスへの応用を目指して研究されている.9),10)a-CNxのC-K発光スペクトルには3つの構造A,B,Cが観察されることがわかる.Graphite,a-Cのスペクトルとの比較から,Aはsp 2 -σ結合,Cはπ結合に起因する構造と同定される.興味深いのは,Diamondのピークと同じエネルギー位置に構造Bを有することであ日本結晶学会誌第61巻第1号(2019)る.このことは,アモルファスカーボンにNを添加することでsp 3 -σ結合が生じていることを示している.また,スペクトルの右端(矢印)の位置が,ほかのスペクトルよりも高エネルギー側に位置している.解析の結果,これはπ結合の炭素原子に窒素が結合し,その結果生じたケミカルシフトに起因すると解釈できる.8)a-CNx膜は,窒素含有量が増加すると電気抵抗率が大きくなることがわかっている.そこで,異なるx(異なる電気抵抗率)の膜のスペクトルを測定し,C-K発光スペクトルの面積強度で規格化して比較したものを図5bに示す.窒素の含有量xが増加(N-K(3)強度が増加)すると,sp 2 -σ強度が減少するとともに,sp 3 -σ強度とスペクトル右端の強度が増加するという傾向を明瞭に示している.これは,窒素含有量が増加するとsp 3結合が増加した結果,sp 2結合による伝導パスが途切れ,それによるマクロな膜の電気抵抗率が大きくなっていると解釈できる.また,膜面内でのN-K(3)強度の揺らぎとC-K(2)のsp 3(構造)の強度揺らぎの間に相関があることが,二次元のスペクトルマップ分析により明らかとなった.8)図6に,NaドープCaB 6バルク試料の結合電子状態マッピングの例を示す.11)測定には,汎用のEPMA-SXES装置を用いた.CaB 6は,B 6正八面体クラスターが単位胞(立方晶)の頂点に,体心位置にCa原子が配置した構造を有する.Ca原子からB6クラスターネットワークへ価電子2個が移動してボロンの価電子帯が満たされn型半導体となる.この材料は,熱電変換材料への応用を目指した研究が行われている.12)最近,Caより価電子が1つ少ないNaでCaを置換する(ホールドープ)することでp型の特性が得られることが報告された.13)元素分析から,Naが数%含まれていることが確認されている.図6aは,各測定点でのB-K発光強度の全積分強度(170~188eV)の分布像(元素分析に対応)である.左上の強度の異なる領域は表面の汚染による.図6bはB-K発光の上端部分(187~188 eV)の積分強度分布像を示す.この画像の中心付近の強度が明らかに異なる.元素分析より,この領域はCa量の少ない領域であることがわかっている.図6b中のAとBの場所の発光スペクトルを図6cに示す.強度分布に差(電子状態の差)があると同時に,スペクトルのピーク位置(矢印)と価電子帯上端の位置(右側の小さい矢印)が,Ca量の少ない領域(B)ではともに高エネルギー側に0.7 eV程度ずれている.すなわち,同じエネルギー窓(187~188 eV)の強度分布では,スペクトルが高エネルギー側にシフトしているCa量が少ない領域(Na量が多くホールドープとなっている領域,残念ながら使用したSXES装置ではNaの特性X線を計測できない)の強度がより大きくなる.このエネルギーシフトは,Ca原子の欠損もしくはNa原子への置換によるホールドープによりB格子の価電子数がわずかに減少5