ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

日本結晶学会誌60,161-162(2018)最近の研究動向共鳴X線散乱によるマルチフェロイック物質SmMn 2 O 5の磁気秩序観測東北大学理学研究科物理学専攻石井祐太Yuta ISHII: Observation of Magnetic Ordering in Multiferroic SmMn 2 O 5 by ResonantX-ray Scattering近年,強誘電性や(反)強磁性,強弾性といった複数の強的秩序が共存することで,多彩な性質を示すマルチフェロイックス1)と呼ばれる物質が注目を集めている.特に,磁気秩序が強誘電性を誘起するType-IIマルチフェロ2イック系)では,磁場(電場)印加により電気分極(磁化)が回転するなどの現象(非線形電気磁気効果)が発現することから,基礎と応用の両方から盛んに研究が行われている.これらの物質に対しては,サイクロイド磁気構造が電気分極を誘起し,磁気モーメントの外積にその大きさが依存する「逆Dzyaloshinskii-Moriya(逆DM)効果」や,交換相互作用に起因し,磁気モーメントの内積に電気分極が依存する「交換歪モデル」など,スピン配列を起源とする強誘電性機構が提唱された.3)したがって,物質の磁気秩序を知ることは,電気分極の微視的起源を理解するうえできわめて重要になる.RMn 2O 5系(R:希土類元素)は,反強磁性と強誘電性が結合するマルチフェロイック物質である.この系は,希土類元素を変えることでさまざまな電気磁気効果を示す.例えば,TbMn 2O 5では低温で磁場により電気分極が反転する.またTmMn 2O 5では,磁場により電気分極が90度回転する.このような電気磁気効果は非常に注目を集め,さまざまなRMn 2O 5に対して研究が行われた.その結果,上記の逆DM効果と交換歪モデルを介して強誘電性が発現すると議論されている.4)本研究の対象であるSmMn 2O 5は,RMn 2O 5やほかのマルチフェロイック物質の中でも大きな電気分極を有する.一方で,これまでその磁気秩序は明らかにされてこなかった.そこで,筆者らはPhotonFactory(KEK)にて共鳴X線散乱によりSmMn 2O 5の磁気秩序を観測し,この物質の強誘電性の起源を調べた.5)共鳴X線散乱は,元素のX線吸収端を利用する.例えば,Mn K吸収端の場合,試料にX線を入射するとMnの1s軌道から4p軌道への電子遷移が起こる.遷移された電子は,入射X線と同じエネルギーのX線を放出しながら元の1s軌道に戻る.4p軌道が磁気秩序に対応して偏極している場合には,磁気秩序に由来した共鳴X線散乱が日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)観測される.共鳴X線磁気散乱の散乱振幅は,X線の偏光ベクトルに依存して次のように表される.6)?σ?σ′σ?π′? ?f = ?? ?′?′? =πσππ?? ?uy0 ?uycosθ?uzsinθ?cosθ? uzsinθ?u xsin2θ??(1)ここで,σおよびπはX線の偏光ベクトルの成分であり,散乱面内の成分をσ,これに直交する成分をπと定義する.また,散乱波の偏光成分はそれぞれ,σ′およびπ′と定義した.u=(u x,uy,uz)は磁気モーメントの単位ベクトルである.これらの方向の定義と実験配置を図1aに示す.SmMn 2O 5のSm L III端周辺における共鳴散乱のエネルギースペクトルを,図1bに示す.入射X線はπ偏光である.温度はT=5Kで,逆格子点はQ=(5.5,0,0)で実験を行った.散乱強度はE=6.723 keVで極大値をもち,共鳴散乱が起こっていることがわかる.このことから,Smの磁気モーメントは磁気伝搬ベクトルqM=(1/2,0,0)で配列していることが確認された.図1(a)ψ=90°のときの実験配置.(b)Sm L III端の共鳴散乱のエネルギースペクトル.(c)磁気相図(上段)および電気分極Psと誘電率ε(下段).((a)Experimental geometry atψ=90°.(b)Energyspectrum around Sm L III edge.(c)Magnetic phasediagram and electric polarization in SmMn 2O 5.)161