ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

日本結晶学会誌60,159-160(2018)最近の研究動向PDF解析による局所構造解析の最近の展開(公財)高輝度光科学研究センター利用研究促進部門杉本邦久Kunihisa SUGIMOTO: Current Development of Local Structure Analysis Using PDFTechnique昨年インドで開催されたIUCr 2018を始め,ここ最近の結晶学に関する学術会合では,必ずと言っていいほどPair Distribution Function(PDF)解析を議論するセッションが設けられている.これらのセッションでは,主に電池や触媒などの動作環境下での動的な構造変化の観察について報告されており,今後,局所的な構造を議論する上で,さまざまな研究分野での展開が期待される.本稿では,大型放射光施設で行われているPDF解析の動向を中心に紹介する.PDF解析の歴史は,古く,1927年には,ZernickeとPrinsらにより,非晶質や粉末の等方的な試料による散乱の理論的な枠組みを導出することに成功した.1)その3年後に,DebyeとMenkeは,この手法を適用して液体の水銀の構造に関する報告を行った.2)1960年代以降,コンピュータが高速化するに伴い,計算能力を必要とする動力学的シミュレーションやReverse Monte Carlo(RMC)などのモデリングを活用したPDF解析は着実に発展し,今日に至っている.局所構造の情報を含む全散乱計測データにPDF(二体相関分布関数)法を適用することによって,密度・濃度揺らぎや短距離(ユニットセル以下)から中距離レンジ(ナノメートルスケールオーダー)の構造を解析することが可能である.また,正確なPDF関数を得るためには,2θにおいて,広い範囲(=高分解能),かつ正確な散乱強度を観測する必要がある.PDF関数のG(r)は,式(1)に示すとおり,全散乱計測によって得られる回折データを原子数およびその散乱長で規格化した散乱関数S(Q)(Q=4πsinθ/λ)のフーリエ変換によって直接的に求めることが可能である.2Gr () =∫Q max QSQ [ ( ) ?1]sin( Qr)dQ(1)π0近年,注目されている時間分割PDF解析は,主に放射光X線を用いて実施されており,独自に電池セルなどを開発することによって,動作環境下でのPDFオペランド計測が実施されている.放射光施設を利用する理由として,もちろん,上述の大強度X線源が必要であるということだけでなく,高エネルギーX線により高いQレンジの散乱強度を得ることも重要な条件となってくる.世界の放射光施設を見ても,多くの場合,60 keV以日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)図1SPring-8のBL04B2に設置されているPDF解析用実験システム.(Instruments for PDF analysis at BL04B2/SPring-8.)上(0.2066 A以下)のX線エネルギーにより,高エネルギーX線対応のフラットパネル検出器を用いた測定を行うビームラインが整備されている.原理的には高エネルギーX線を用いると,より高いQレンジまで計測可能であるが,通常,統計精度を担保した30 A-1程度のデータをPDF解析に用いる.PDF解析によって得られるPDF関数のプロファイルは,ピーク位置が原子間距離,ピーク面積が配位数に依存する.そのため,構造を決定するような精密なPDF解析を行うには,データ収集時に,高いQレンジだけでなく,正確な散乱強度の測定が重要であるため,データ収集時にコンプトン散乱などを除去するためのエネルギー分解能を有する検出器やアナライザー結晶を用いるなどの注意を払う必要がある.非晶質物質の構造解析の一例として,DVD,BD材料のベースとなった実用材料であり,かつ相変化材料の標準物質として幅広く研究されているGe 2Sb 2Te 5の非晶質構造を挙げる.3)本研究では,大規模密度汎関数-分子動力学シミュレーションにより理論的に構築した構造モデルをベースとして,SbとTeの異常散乱を用いK吸収端近傍で観測した元素選択PDFデータを再現するように非晶質構造のモデルを構築した.得られた非晶質相の構造モデルにより,これまで非晶質相中に多く存在すると知られていた4員環は,Snを介した強靱なネットワークを構築し,さらに記録消去過程において結晶化の核生成の種となることが明らかとなった.ここで言う4員環とは,159