ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

会報三木邦夫会員は,タンパク質結晶学の手法を駆使して,生物学的に重要な数々のタンパク質およびその複合体の構造を解析し,生体反応機構の原子・電子レベルでの解明に多大な貢献をした.また,我国のタンパク質結晶学コミュニティーにおいて,リーダー的な役割を果たしてこの分野の発展に大きく貢献し,生物構造化学ともいうべき領域を切り開き先導してきた.三木会員は構造生物学の黎明期から今日に至るまで,光合成反応の分子機構に関する研究,DNA結合タンパク質に関する研究,タンパク質のフォールディングや成熟化に関する研究,物質の運搬や貯蔵に関与するタンパク質の研究,酵素の分子認識や電子伝達に関する研究と多岐にわたる業績を残している.これらの研究は,単に各タンパク質の結晶構造を決定するにとどまらず,分子の機能メカニズムを原子レベルで明らかにするという点で一貫している.例えば,転写因子であるSoxRや複製開始因子RepEの構造変化を伴う転写あるいは複製制御や,ヒドロゲナーゼ成熟化の分子機構の解明など,多くの先駆的な成果を残している.さらに近年は,タンパク質の機能メカニズムの研究を電荷密度のレベルにまで掘り下げ,タンパク質の電荷密度解析の分野で最先端の研究を展開している.具体的には,光合成に関連する電子伝達タンパク質である高電位鉄イオウタンパク質(HiPIP)の構造研究において,短波長の放射光X線(波長0.45 A)を用いた超高分解能構造解析(0.48 A分解能)と電荷密度解析を行い,タンパク質の機能を実験的に得られた電荷密度分布から理解することを可能にした.このように三木会員は,一貫して行ってきたタンパク質の構造機能相関の研究を,原子レベルの構造解析から電荷密度分布の構造解析にまで拡張し,深く掘り下げることで生物構造化学ともいうべき新しい分野を切り開いた.これらの成果は世界に先駆けた独創的なもので,Nature誌を始めとするトップジャーナルに掲載されきわめて高い国際的評価を得ている.三木会員は,これらの研究成果を上げるのと同時に,結晶学を中心とした学協会や,さまざまな委員会において指導性を発揮し,わが国の学術研究の発展に非常に大きな貢献をしてきた.三木会員は,評議員として長年本学会の運営に携わっており,平成26~28年には会長も務めた.国際的にも国際結晶学連合(InternationalUnion of Crystallography)において,生物高分子委員会(Commission on Biological Macromolecules)の委員および顧問や学術刊行物委員会の委員を務めている.また,Proteins: Structure, Function and Bioinformatics誌およびActa Crystallographica Section D, Biological Crystallography誌の編集委員など,国際的専門誌の編集に携わり,結晶学分野および構造生物学分野の発展に大きく貢献している.上記の三木邦夫会員の研究業績および指導的立場でのタンパク質結晶学,構造生物学への貢献は誠に大きく,日本結晶学会賞西川賞に相応しいものである.日本結晶学会賞学術賞「ゼオライトの粉末X線構造解析と解析ソフトウエア高度化への貢献」池田拓史会員池田拓史会員は,ナノメートルオーダーの微細孔が規則配列するゼオライトなどの無機結晶の未知構造および不規則構造を粉末X線回折法で決定するとともに,それらの化合物の特徴的な構造を基盤に,これに新機能を付加する研究を精力的に行ってきた.またその過程で,国内で広く利用されているリートベルト解析プログラムRIETANの高度化に大きく貢献した.ゼオライトは,柔軟で歪みやすい骨格構造をとり,細孔内に吸着水や有機分子を含むため結晶性はあまり良くない.かつ,主成分が軽元素で単位胞が大きいため,結晶構造解析がきわめて困難な場合が多い.池田会員は,Cu Kα1特性X線や放射光X線を用いて粉末回折データを精密測定し,直接法,チャージフリッピング法,最大エントロピー法,およびリートベルト法を併用することにより,この課題を克服し,未知構造や不規則構造を精力的に決定してきた.併せて,層状ケイ酸塩や有機・無機ハイブリッド多孔体の微細孔構造をデザインすることで,化学産業に重要な新機能をもつ多くの結晶の創製に成功した.池田会員の主な研究成果を以下に示す.(1)層状ケイ酸塩PLS-1の構造解析から得られた骨格構造表面の情報を基に,ゼオライトCDS-1を合成し,粉末結晶構造解析を行った.このtopotacticな構造変換はゼオライト合成の新しい設計概念となっている.(2)有機シランとアルミナなどの無機材料から多孔体KCS-2を合成し,結晶構造を決定した.KCS-2の一次元細孔の内壁は,親水性の有機分子と疎水性のシラノール基が交互に連なり,アルゴンやトリメチルベンゼンのみならず,酵素であるリゾチームをも吸着でき,固定化酵素反応に有効である.(3)チャージフリッピング法でアルミノシリケート型ゼオライトYNU-5の結晶構造を決定した.その細孔構造は,ジメチルエーテルから低級オレフィンを合成する反応における触媒活性が期待されている.上記以外にも池田会員は,鉱物「千葉石」の構造解析,ゲルマニウム酸ビスマスの未知構造解析,大環状分子からなるLiイオン電池負極材料の構造研究,トンネル構造型ジントル相熱電材料の構造研究など特筆される業績を上げている.さらに池田会員は,泉富士夫博士が開発したRIETANの機能および操作性の向上と普及にも大きく寄与した.泉博士との共同研究の過程で,多くの結晶の粉末X線218日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)