ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

松尾光一[θ]×10 -3/ deg・cm 2・dmol -1LD×10 3/ absorbance units(a)3020100-10-200.0-0.4-0.8VUVCDLD180 200 220 240 260Wavelength / nm(b)(c)[θ]×10 -3 / deg・cm 2・dmol -1(a) (b)Y F6040Experimentally observed spectrum200-20-4040Theoretically calculated spectrum200-20-40180200220240260280300Wavelength / nm図10 VUVCDとCD理論を用いたβ2m 21-29アミロイドFFYFYYFYFY図9 VUVCD-LD法を用いた生体膜と結合したα-ラクトアルブミンの構造解析.(Structure analysis ofα-lactalbumin interacted with membrane.)37)フラグメントも相互作用によりα-ヘリックス含量が増加し,膜表面に対して特徴的な配向構造を形成することがわかった.この手法はFull lengthのミエリンタンパク質にも応用され,生体膜と結合したタンパク質構造がフラグメントレベルで明確にできた.38)また,α-ラクトアルブミン(LA)のVUVCDとLDスペクトルを,生体膜存在下で測定し二次構造解析を行った.図9aに生体膜存在下のLAのVUVCDスペクトルを,図9bに二次構造配列の解析結果を示す.生体膜存在下では,天然状態と比べα-へリックスの長さや本数が増加し,α-へリックスリッチなコンフォメーションを形成することや,α-へリックスのアミノ酸配列情報(両親媒性など)から2本のα-へリックスが生体膜と結合することが示唆された.さらにLDスペクトルを測定(図9a)からα-へリックスの配向を解析した結果,2本の両親媒性へリックスが生体膜の表面に結合(図9c)していることがわかった.33)この方法は,チオレドキシンやβ-ラクトグロブリンの配向を含めた膜結合構造の解析にも有効であった.37)このように,放射光を用いたCD法とさまざまな解析技術を組み合わせることで,膜結合タンパク質の詳細なコンフォメーション解析が可能となっている.5.4.2アミロイド線維アミロイド線維は,タンパク質やペプチドのβ-シート構造が線維軸方向に積み重なったクロスβ構造を形成するが,その形成機構や毒性はアミノ酸配列や溶媒環境に依存する.43)ここではアミロイド線維を形成するAβのほか,透析アミロイド症の原因物質であるβ2-ミクログロブリン(β2m)について,VUVCD測定からわかったことを述べる.Aβうち42アミノ酸からなる分子種のAβ42とその変異体AβE22QのVUVCD測定から,変異体はAβ42とは異なり線維形成の初期にβ-ストランド構造を形成し,これが線維形成の速度などに影響することがわかった.44)線維の構造解析.(Structural analysis ofβ2m 21-29amyloid fibrils using VUVCD and CD theory.)(a)β2m 21-29アミロイド線維の実験・理論スペクトル,(b)β-シート間のスタッキング構造(YとFは,それぞれTyrとPheを示す).43)また両親媒性ペプチドから構成されるアミロイド線維のα-へリックスとβ-ストランド含量がpHの違いにより大きく異なり,透過型電子顕微鏡から得られた線維の持続長などとの関係性を調べた結果,線維の硬さと柔らかさは,それぞれβ-ストランドとα-へリックス含量に比例することがわかった.45)また,溶媒条件に依存するβ2mのアミロイド線維の形態の違い(needlelikeとflexible型)についても,VUVCD測定により二次構造レベルで明確化することができた.46)このようにVUVCD法は,多様な条件下でのアミロイド線維の二次構造解析に有効であることがわかる.一方,測定対象が芳香族アミノ酸の成分比が大きいタンパク質の場合,芳香族アミノ酸によるCDへの影響が遠紫外やVUV領域まで到達する可能性がある.47), 48)このようなタンパク質CDの解析には,タンパク質の立体構造からCDスペクトルを算出できるCD理論が有効となる.5)β2mの断片ペプチドβ2m 21-29(9残基中にPhe,Tyrをそれぞれ1残基含む)のアミロイド線維は,pHに依存した特徴的なコンフォメーションを形成する.49)このVUVCDスペクトル測定を300~178 nmまで行い二次構造解析を行った結果,このスペクトルには,二次構造以外の寄与が多く含まれることがわかった.43)これを理論的に確認するため,β2m 21-29アミロイド線維のモデル構造を形成し,分子動力学法(GROMACS)により得られたシミュレート構造からCD理論を用いてβ2m 21-29アミロイド線維のCDを算出した.その結果,このアミロイド線維のCDには芳香環-主鎖カップリングの影響が含まれ,これらのカップリングがβ-シート間のスタッキング(平行シート・逆平行シートなど)に依存することがわかった.スタッキングパターンに依存したアミロイド線維のCD理論を計算し,実験値と詳細な比較を行った結果,平行β-シートが逆平行で積み重なったスタッキング構造が最も良く実験値を再現した(図10a).さらに206日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)