ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

放射光真空紫外円二色性分散計の開発と生体分子構造解析コピラノシドやメチル-D-ガラクトピラノシドの理論解析を行った結果,αとβアノマー型はそれぞれ160 nm付近で負と正のCDピークを示すことや,図3で観測されたD-ガラクトースの負のCD値は,GT配位に加え,C-4位のOH基のアクシアル配位に起因することがわかった.10)このような立体配座とCDとの関係の解明により,温度などによって変化する糖類の平衡状態についての構造解析が可能になりつつある.また,図4bのように実験CDの特徴が理論的に再現できると,実験データからは獲得できなかったさまざまな溶液構造情報について議論できる.水分子を考慮したMDシミュレーションの結果から,各回転異性体のダイナミクスを解析したところ,C-6位のCH 2OH基が環状酸素(O-5)やC-4のヒドロキシ基と特徴的な分子内水素結合を形成すること(図4d)や糖周辺の水素結合ネットワークにかかわる水分子の数や分布(水和構造)は,糖類の立体配座に大きく影響することがわかった.また軽水と重水中のメチル-α-D-グルコピラノシドのCDスペクトルの差を最新の量子力学計算から帰属することで,同位体効果による水和構造への影響も明確にできた.11)このようにMDとTDDFTを用いた糖類のVUVCD解析により,構造ダイナミクス,平衡状態,分子内水素結合,水和(分子間水素結合)などの糖の機能や性質にかかわる溶液構造について議論することができる.4.2オリゴ糖類二糖類のCDスペクトルは,単糖類と同様に,170 nm付近にCDピークを示すが,グリコシド結合の配向(α,β)や部位(1,2位,1,4位,1,6位など)の違いに敏感である.そのため二糖類は,構成単糖のスペクトルを加算したものとはならないが,種々の二糖類の比較から,1,2結合と1,4結合に比べ1,6結合は楕円率が増加する方向に,またα結合はβ結合に比べて楕円率を増加させかつピークをブルーシフトさせることがわかった.9)図5に,グル[θ]×10 -3 / deg・cm 2・dmol -11284MaltoseDP = 20-4[θ]×10 -30.0 190 nm-0.5×102 4 6 8 10DP valueDP = 10-8170 180 190×10 200Wavelength / nm図5マルトオリゴマーの鎖長(DP)に依存したVUVCDスペクトル.(VUVCD spectra of malto-oligomers(DP=2~10).)12)負のCDピークの強度は10倍で示されている.日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)コースがα-(1→4)グリコシド結合したマルトースのオリゴ糖類であるマルトオリゴマーの鎖長に依存したCDスペクトルを示す.この図から,このオリゴマーのCDスペクトルは,非常に類似したスペクトルを示すが,オリゴマーの鎖長(DP)が長くなるに連れて(DP=2~10),190 nm付近のピークが負の方向に増大することがわかる(図5).また鎖長の長さに対して,190 nm付近のCDをプロットすると鎖長が7~8付近で,ピーク強度の変化が小さくなることがわかった(図5).12)マルトースオリゴマーは,7残基程度で一回転のヘリックスを形成することがわかっており,13),14)またTDDFTによる理論計算からこの領域がグリコシド結合内の酸素原子由来の電子遷移を含むことがわかったため,このスペクトル変化はオリゴ糖類のコンフォメーションと関係があると考えられる.同様の結果は,ヘリックス構造を形成するラミナリオリゴマーでも観測された.これらの結果は,CD法によるオリゴマーのコンフォメーション解析の可能性を開くだけでなく,グルコサミノグリカンなどのよ15り複雑な多糖類の構造)の理解に向けた重要な情報になると考えられる.5.タンパク質の構造解析タンパク質のCDスペクトルは,主に3つの波長領域に分けることができる.主鎖構造であるペプチドが吸収を示す250 nm以下の遠紫外領域,芳香族アミノ酸側鎖やジスルフィド結合が吸収をもつ300~250 nmの近紫外領域,ヘムなどのタンパク質リガンドが吸収を示す300~700 nmの近紫外~可視領域である.5)紫外領域への芳香族アミノ酸側鎖の寄与は,ペプチドと比べ非常に小さいため,遠紫外領域は二次構造(α-ヘリックスやβ-ストランドなどの規則構造)解析に,近紫外領域は三次構造(例えば,Trpなどの側鎖とその周辺の構造)解析に使用される.5)しかし,タンパク質やペプチド内に芳香族アミ図6[θ]×10 -3 / deg・cm 2・dmol -16040200-20MyoglobinConcanavalin ASTI-40160 180 200 220 240 260Wavelength / nmミオグロビン,コンカナバリンA,大豆トリプシンインヒビター(STI)のVUVCDスペクトル.(VUVCD spectra of myoglobin, concanavalin A, andsoybean trypsin inhibitor(STI).)7)203