ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

黒田玲子(a)CD [m deg](b)30Parallel type2030Parallel G-quadruplex type2010G-quadruplex Parallel type2010G-quadruplex0100-100-10-20-10-20-30-20-30 220 240 260 280 300 320-30 220 240 260 W avelength 280 [nm ] 300 320220 240 260 280 300 320CD [m deg CD ] [m deg]25℃25℃35℃25 35℃40℃35 40℃45℃40 45℃55℃45 55℃55℃図11(a)熱感受性ヒドロゲルPNIPAAm内に結合した単鎖DNAがゲルの膨潤/収縮に合わせて,4重螺旋構造をとる模式図.(b)DNA領域のCDスペクトルの温度変化.((a)A model of a single-strandedDNA tethered inside thermoresponsive hydrogelPINAAm adopts G-quadruplex structure dependingon the temperature.(b)CD spectral changes of the gelin DNAabsorption region.)Destabilization図12(a)Aβ40が溶液から膜になる過程での230 nmのCD,LD,HT値の時間変化と,(b)対応した波長スキャンCDスペクトル.((a)CD, LD and HTvalue changes at 230 nm during the phase transition ofAβ40 from solution to a film.(b)The correspondingwavelength scan CD spectra.)Aβ42はAβ40よりもβシート構造の割合が増えていることが明らかになった.14)さらに,垂直型CD分光計UCS-2を用いて,構造変化のダイナミクスを追跡した.溶液中ではAβ40はα-へリックス構造をとっている.水溶液の液滴を水平な試料台に置き,それがゆっくりと乾いて膜を形成する過程で,タンパク質の高次構造がどのように変化していくかをリアルタイムで透過CDで追跡した.変化前のCDスペクトルは溶液のそれとよく似ている.図12に示したように,固定波長でフォトマル加電圧を測定していると,あるところで大きく変化するところがある.この後の短い時間にタンパク質はαへリックス構造が中心のものからβシート構造が多い,凝集状態の構造に変わったことが明らかとなった.4.8電荷移動錯体の崩壊過程の追跡ピレンPyrene(PYR)とパラベンゾキノンp-benzoquinone(Q)はともにアキラルな有機化合物であるが,混合溶液から容易に濃い赤色に着色したキラルな電荷移動錯体の結晶を生成する.21)アキラルな分子の結晶内の配置によるキラリティーであり,興味深い.空間群はP4 1あるいはP4 3で,単軸晶系に属するので,4回軸周りには異方性がなく,この軸方向のCD測定に問題は生じない.しかし,吸収係数が非常に大きく,結晶軸に垂直な薄い面を作るように磨くことは至難の技である.そこで,粉末結晶のCDを測定した.この結晶はQが昇華性で,室温図13 PYRとQが作る電荷移動錯体粉末結晶の時間変化粉末X線回折像と拡散反射CDスペクトル.(Time-course change of powder X-ray diffractionpatterns and diffuse reflectance CD of the Charge-Transfer complex crystals made from PYR and Q.)で放置しておくと次第に色が消えていく.以前,Qが失われても結晶構造が壊れてアモルフォスになることなく成分結晶に戻ることを,ほかの電荷移動錯体で発見している.22)PYR-Q電荷移動錯体結晶においても,Qが昇華して行く過程でPYR分子が自然に再配列してPYR結晶に戻る.その変化の過程を粉末X線回折像と,UCS-3を用いたDRCDで追った(図13).シャープな回折像が観測され,アモルフォス状態を経ずに,PYR結晶の回折像に戻った.粉末の拡散反射(DR)CDは,P4 1,P4 3に対して互いに鏡像対称のスペクトルを示すが,どちらも,時間の経過とともに強度を失っていき,24時間後,粉末X線回折像がPYR結晶のものになったときには強度が0となった.21)このような知見は,固体状態のCD測定で初めて明らかになることである.粉末結晶のKBr disc作製中にマト198日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)