ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

凝集状態のキラリティーを測定できる分光計の開発3.3測定装置UCS-2/3の概要さらに,試料を水平に置いて透過CDおよび拡散反射CDの両方の測定ができる装置,UCS-2,12)UCS-3 13)を開発した(国内特許取得).装置のブロックダイアグラムを図3に示す.UCS-2およびUCS-3の特徴は,光をプリズムによって90°曲げて鉛直に走らせ,サンプルを水平に置くことができるようにしたことである.ともに透過CDおよび拡散反射CD(DRCD)を測定できる.UCS-2とUCS-3の違いは,UCS-3のほうが,拡散反射球を改良し感度を20倍とし,UCS-2では250~800 nmまでであった測定領域を190~800 nmまで短波長領域に広げるなど改善した点である.測定原理は上記のUCS-1とほぼ同じである.サンプルを水平に置くことで,粉末,ゲルなどサンプル保持に重力の影響を受けるものin situでのキラリティー測定が可能となり,タンパク質が溶液から凝集する過程や粉末結晶が時間とともに結晶状態を保ちつつ変換していく現象の追跡など,リアルタイム測定を行うことができるようになったことである.驚くべき知見を得ることができた.具体例をいくつか4.で紹介する.3.4測定装置UCSと測定方法の検証Congo Redを吸着したポリビニルアルコール(PVA)フィルムはキラルではないが,強いCDを示す.これは図4 Congo Redで染色したPVAフィルムの見かけのCD(表と裏)とその平均の真のCDスペクトル.(Apparent CD(face and back)of a PVA film died withCongo Red.The average of the two spectra gives trueCD.)図5 UCSで測定したAβ40のL-B膜の(a)CDと(b)CBおよび(c)Kramers-Kroenig変換によるCBスペクトル.(Comparison of(a)true CD,(b)true CB and(c)CBcalculated based on Kramers-Kroenig relationship.)日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)すべて偽のピークである.サンプルが均一であれば強い異方性があっても,式(6)と(7)で表される試料の表,裏のスペクトルを測定するというわれわれの開発した測定法により,偽のスペクトルを除去できるはずである.図4に示したのがその一例で,表の見かけの強いCD,裏の見かけの強いCD,そして,それらの平均として得られる真のCDスペクトルが示されている.真のCDスペクトルは打ち消されてほぼゼロになっており,われわれの測定装置と解析方法の正しいことが裏づけられた.3)また,異方性シグナルの混入しないCBスペクトルの測定法も開発したが,14)このようにして求めた真のCDとCBの間に吸収と分散のKramers-Kronigの関係が成り立つことを検証した.一例として,図5にアルツハイマー病の原因タンパクの1つであるβ-アミロイド40の18~20層積層したL-B膜(Langmuir- Blodgett)についての結果を示すが,良い一致を示している.14)4.UCSでの測定例UCS分光装置を用いて得られた知見の代表的例を以下に示す.有機物,無機物,生態関連物質,結晶,膜,ジェルと,多岐にわたる.4.1結晶中での光反応の追跡8-Bromo-2-thioaryloxy-3-methylcyclohexen-l-one(1)は軸不斉をもつ化合物で,溶液中では単結合周りの回転が容易におきるために,キラルではない(図6a).光環化反応を起こしてキラルな化合物2となるが,溶液反応ではラセミ混合物が得られる.しかし,(-)-(R,R)-(-)-trans-2,3-bis(hydroxy diphenyl methyl)-1,4-dioxaspiro-[4,4]nonane(3)と1:1のキラルな包摂結晶を作り,化合物1のキラリティーを左右の一方に固定して固体状態で光反応を行うと,ホスト化合物のキラリティーに依存して一方のエナンチオマーが多く生成される(図6a).この反応の様子を結晶のCDスペクトルで追うと,ゲスト分子領域に等吸収点をもったスペクトルが得られた(図6b).8),9)包摂結晶を溶液に溶かせば,キラルなホスト分子による束縛がなくなり,化合物1はアキラルとなる.光路長の長いセルを用いても,化合物1のCDピークはこの領域にはまったく現れない(図6c).固体状態でのCDスペクトルの強みを示す好例であろう.4.2等軸晶系結晶は本当に光学的に均質だろうか?等軸晶系の結晶はどの方向からも光学的に均質であり,巨視的異方性がないと信じられてきた.しかし,キラルなクラスTに属する等軸晶系結晶には複屈折があることを,真のLB測定法を開発し,NaClO 3結晶を用いて初めて明らかにすることができた.15)[111]方向にはLBはないが,[100]方向では,図7に示すように,結晶の厚さに比例してLBを示す.しかも,われわれの手法で補正された真のLB値と厚さには,補正前のデータよりも195