ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

日本結晶学会誌60,191-199(2018)ミニ特集キラリティー測定の最前線凝集状態のキラリティーを測定できる分光計の開発東京理科大学研究推進機構総合研究院黒田玲子Reiko KURODA: Development of Chiroptical Spectrophotometers which can MeasureCondensed PhasesMolecular chirality realizes strongly in the condensed phases(crystals, membranes, gels),however, it cannot be generally measured by commercially-available spectrophotometersdue to strong macroscopic anisotropies. We have developed novel Universal ChiropticalSpectrophotometers, UCS-1~3, which overcome these problems. UCS-1 provides all opticalcharacteristics. UCS-2/3 measure transmittance and Diffuse Reflectance CD, with vertical incidentlight and a horizontal sample stage, ideal for a droplet of solutions, loose powders or gel, to revealstructures and the dynamics of the transition processes. In this article, I shall describe the difficultyof solid-state chirality measurements, principles/outlines of UCSs and several examples of richinformation obtained using UCSs.1.はじめに1.1分子あるいはその集合体のキラリティー靴のように鏡像対掌体(右の靴と左の靴の関係)が別であることをキラル,靴下のように同じであることをアキラルという.キラルな性質をもつ物質があることが最初に発見されたのは水晶についてである.1812年,Biotが結晶面の出方が互いに鏡像対掌の右水晶と左水晶に直線偏光を当てたところ,透過光の偏光面が右に回転(右旋性)あるいは左に回転(左旋性)した.その後,液体状態でもキラリティーがあることが示され,キラリティーは分子の特性であることが判明した.キラル分光はもっぱら溶液状態の分子に関する研究を扱い,分子の絶対構造や光学純度の簡便な判別手段として広く使われるようになった.一方で,キラリティーの発見が結晶でなされたにもかかわらず,固体状態でのキラリティー研究は少数派となっていった.1.2何故凝集状態が重要なのか?固体中で分子(本稿では原子・イオンも含めた広義の分子)は熱振動をしているもののその動きは液体,気体と比べれば大幅に制限されており,隣接した分子の影響を大きく受ける.このため,固体状態の分子は溶液状態とは異なった構造をとったり,ユニークな化学反応を起こしたりする.また,水晶SiO 2はSiとOから構成されておりキラルな分子は存在しないが,原子の配列の仕方により,結晶状態ではじめてキラリティーが現れる.一方で,タンパクと核酸がキラルであることを利用して,これら生体の基本物質の高次構造を溶液のキラリティーを使って調べることができるが,β-アミロイドのような日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)繊維を形成したタンパクの構造は凝集状態での構造を調べる必要がある.このように,アキラルあるいはキラルな構成要素(分子,イオン,原子)のキラルな集合体のキラリティーの研究から,溶液中の分子のキラリティーに勝るとも劣らない重要な知見が得られる.分光測定は一般に溶液状態で行われ,単結晶X線構造解析で得られた分子構造を参照するのが普通である.しかし,前述のようにこの2つの状態で分子が同じ構造・挙動をとるとは必ずしも限らない.特にキラル分光は構造の違いに非常に敏感である.大学院生時代にこのことに気づき,博士論文の研究テーマの半分はキラルな金属錯体の固体状態でのキラル分光測定に当てた.それから約45年間,途中キラル分光研究に従事しなかった時期も一時あったが,固体状態におけるキラル分光装置の開発,測定方法の開発と応用の研究を行ってきた.研究対象は,無機物質,有機物質,生体物質とすべてにわたり,単結晶,粉末結晶,膜,ゲル状態での測定を可能にすることができた.本稿では,凝集状態のキラル分光の問題点,それを解決できる装置の開発,応用例について解説する.2.凝集状態のキラリティー測定2.1何故凝集状態の測定が困難なのか?キラリティーは右回り,左回りの円偏光に対する吸光係数の差であるCD(circular dichroism,円二色性)を50 kHzの信号として観測する.後述するように,ストークスベクトル1)とミューラー行列2)を用いた解析によりSignal 50 kHz=G1(P 2 x+P 2 y)[CD+1/2(LD′LB-LDLB′)]+G1(P 2 x-P 2 y)sin2a(-LBcos2θ+LB′sin2θ)(1)191