ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

キラルらせん磁性体CsCuCl 3の結晶学的・磁気的キラリティーの検証気反転比Rχmagを導入し,以下のように定義する.RχmagI=I? I+ x, ?x ? x,+ x+ I+ x, ?x ? x,+ xこれにより,反転比は,Rχmag日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)(5)*= ? i?MQ ( )×( ) ? ( )?⊥MQ⊥MQ 2 ?⊥(6)と求められる.偏極中性子回折測定は,J-PARC MLに設置された中性子小角・広角散乱装置TAIKAN(BL15)および,Maier-Leibnitz Zentrum(MLZ)に設置されたPOLI 30)にて実施した.三次元偏極解析測定を行うためにCRYOPADを用図4x三次元偏極解析測定による右手系結晶(空間群P6 122)の(a)(1/3 1/3 6-δ)面および(b)(1/3 1/36+δ)面のω走査プロファイルおよび左手系結晶(空間群P6 522)の(c)(1/3 1/3 6-δ)面および(d)(1/3 1/3 6+δ)面のω走査プロファイル.20)(Spinflipchannelω-scan profiles of(a)(1/3 1/3 6-δ)and(b)(1/3 1/3 6+δ)magnetic Bragg reflections for aright-handed(P6122)homochiralcrystalandof(c)(1/3 1/3 6-δ)and(d)(1/3 1/3 6+δ)for a left-handed(P6 522)homochiral crystal.)表2三次元偏極解析測定による右手系結晶(空間群P6 122)と左手系結晶(空間群P6 522)における磁気衛星反射の磁気反転比Rχmagの観測値と,右巻き(RChM)および左巻きキラルらせん磁気構造(LChM)における計算値.20)(Observed and calculated chiral magneticflipping ratios of magnetic satellite reflections in righthanded(P6122)and left-handed(P6 522)homo-chiralcrystals. RChM and LChM represent right- and lefthandedchiral magnetic structures, respectively.)ReflectionObservationCalculationP6 122P6 522RChMLChM(1/31/36-δ)0.95(22)-0.98(17)1.0-1.0(1/31/36+δ)-0.98(27)0.91(17)-1.01.0(2/32/36+δ)-1.03(15)0.95(21)-1.01.0い,右手系および左手系ホモキラル結晶の2つの単結晶試料を磁気転移温度以下である4 Kで測定した.中性子の偏極のために3 Heスピンフィルターを用いた.31)-34)3 Heスピンフィルターによる中性子の偏極率は,同フィルターの透過率が偏極率と相関があることを活用して導出し,観測した磁気反転比の偏極率の補正に用いた.33)らせん磁気構造形成に起因する磁気衛星反射強度はω-scan法によって観測した.らせん磁気構造の右巻きか左巻きの磁気ドメイン比を決定するためには,c軸に平行に近い散乱ベクトルにおいて,スピン反転過程であるI+x,-xやI-x,+xを観測する必要がある.しかし,CsCuCl 3は,磁気伝搬ベクトルが(1/3,1/3,δ)とc軸とほぼ垂直の関係にある.そこで,散乱ベクトルをc軸に近づけるために,(1/3,1/3,6±δ)といった散乱面の磁気衛星反射を測定した.図4に右手系および左手系結晶で観測した磁気衛星反射プロファイルを示す.図4aに示す右手系結晶の(1/3,1/3,6-δ)面では,I+x,-xではピークが観測されたが,I-x,+xでは有意なピーク強度が観測されなかった.一方,図4bに示す(1/3,1/3,6+δ)においては,逆にI-x,+xでのみピークが観測された.さらに結晶構造キラリティーが逆の左手系結晶で測定すると,さらにこの関係が反転した.例えば,図4cに示す(1/3,1/3,6-δ)面において,I-x,+xでのみピークが観測された.表2に磁気衛星反射の各散乱面における磁気反転比Rχmagの観測値と,右巻きおよび左巻きキラルらせん磁気構造における計算値を示す.右手系結晶の観測値は右巻きキラルらせん磁気構造の計算値,左手系結晶は左巻きキラルらせん磁気構造の計算値とよく一致することが判明した.つまり,CsCuCl 3の結晶構造キラリティーとらせん磁気構造のキラリティーが1対1に対応していることが実験的に示されたと言える.4.最後に本稿では,らせん磁性体CsCuCl 3の片手系の結晶キラリティーで構成されたホモキラル単結晶の育成と,偏極中性子回折測定によって本物質のらせん磁気構造のヘリシティを決定したことを紹介した.CsCuCl 3の結晶構造キラリティーと磁気構造のキラリティーがDM相互作用によって1対1に対応していることが実験的に示され,30年以上未解決となっていたCsCuCl 3の結晶構造と磁気構造のキラリティー結合の問題に終止符が打たれた.これまで,PlakhtyらはCsCuCl 3のらせん磁気構造のヘリシティは結晶構造のキラリティーとは結合しないと報告した.17)この原因として,中性子回折測定によって結晶構造キラリティーの決定を試みたため,ラセミ双晶結晶をホモキラル結晶として誤って評価したからであると考えられる.本来,結晶構造キラリティーを決定するためにはX線の異常分散項を活用するが,中性子回折法189