ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

髙阪勇輔表1(1 1 l)面とその等価な回折面における核構造因子の観測値と右手系結晶(空間群:P6 122)および左手系結晶(空間群:P6 522)の計算値.20)(Observedand calculated nuclear structure factors of(1 1 l)andits equivalent reflections,based on space groups ofright-handed P6 122 and left-handed P6 522.)ReflectionObservationCalculationP6 122P6 522(1 1 1)13.34(14)11.2211.22(1 1 2)3.36(8)3.073.07(1_1_3)_8.89(11)10.21 10.21(1 1 4)183.64(52)170.60 170.60(1 1 5)53.88(54)59.78 59.78(1 _ 1 _ 6)82.99(83)88.11 88.11(1 _ 1 _ 7)76.14(76)80.17 80.17(2 _ 1 8)30.75(33)31.68 31.68(1 _ 1 _ 9)24.75(26)23.64 23.64(1 _ 1 _ 10)57.86(59)57.65 57.65(1 _ 1 _ _ _11)11.73(23)6.82 6.82(1 1 12)74.45(76)75.32 75.32図3撹拌法で育成したCsCuCl 3単結晶試料のc面における結晶キラリティーの実空間分布.(a)入射放射光方向から観測される結晶表面の写真.(b)(0 0 14)面における反転比の実空間分布.20)(Image of crystalchirality domains of CsCuCl 3 obtained by spontaneouscrystallization with stirring.)系結晶において異なるとAdachiらは主張している.この評価手法により,両グループは,主に右手結晶キラリティードメインで構成されたとされる単結晶試料で偏極中性子回折測定を実施している.しかし,中性子回折法における核散乱振幅にはX線回折法における異常分散項に対応するものが含まれていないため,右手系結晶と左手系結晶の核散乱強度に差は生じないと考えられる.Adachiらの手法が正しいかどうかを評価するため,J-PARC,MLFのBL18(SENJU)においてCsCuCl 3単結晶による中性子回折測定を実施した.1959の回折面の核散乱強度を観測し,構造解析プログラムJana2006 25)による結晶構造解析を行った.精密化した結晶構造はX線回折による構造解析によるものとよく一致した.しかし,表1が示すように,(1 1 l)面における右手系結晶と左手系結晶における核構造因子の計算値は完全に一致し,Adachiらの主張と完全に異なる.われわれが計算した核構造因子も右手系結晶と左手系結晶で差は確認できておらず,Adachiらは何らかの理由により核構造因子の計算を間違えたのではないかと推察される.そして,AdachiらとPlakhtyらは結晶キラリティードメインの体積分率が不明な単結晶試料で偏極中性子回折測定を実施し,それぞれが異なる結果となったと考えられる.このことは,結晶キラリティーの評価は中性子回折法ではなく,X線回折法といった別の実験手法でしっかりと行わなければならないことを示している.3.CsCuCl 3のらせん磁気構造キラリティーの検証入射中性子線のスピンを偏極させた場合,磁気散乱にchiral項の成分が含まれることが知られている.Blumeは,このchiral項を活用する例として,らせん磁気構造の右巻き・左巻きといった磁気構造のキラリティー検出を挙げている.26)白鳥・秋光らは,らせん磁気構造のキラリティーが実験的に検証可能であることを偏極中性子回折測定によって初めて示した.1)以降,偏極中性子回折法は,らせん磁気構造のキラリティーを決定できる強力な実験手法としての地位を築いてきた.Chiral項は,M( Q) 2 i M( Q) M( Q) *χ= ? ?×??⊥⊥?(3)と表記される.ここで,中性子スピンの量子化軸xは散乱ベクトルQと平行な方向を示す.また,M(Q)⊥は磁気相互作用ベクトルであり中性子と物質の磁気モーメントの相互作用を示す.三次元偏極解析法は,入射中性子と散乱中性子の偏極方向を観測することができ,chiral項の観測手法として知られている.27)-29)回折強度I i,fにおけるiは入射中性子の偏極方向,fは散乱中性子の偏極方向を意味する.例えば,I+x,-xは,入射中性子の偏極方向がxに平行で散乱中性子の偏極方向がxに反平行となる散乱過程の回折強度である.このような散乱の前後で中性子スピンの偏極方向が反転する過程(スピン反転過程)を活用することでchiral項の観測が可能となる.ここで,I+x,-xおよびI-x,+xは,以下のように表記される.2I±x x=⊥i?*⊥×?, ?MQ ( ) ? MQ ( ) MQ ( )?⊥? x(4)I+x,-xとI-x,+xの回折強度の違いを評価するために,磁188日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)