ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

田中良和てユニバーサルに成り立ち,次の4つの事実が導かれる.(a)式(19)はキラリティーによって回折強度が変わることを示している.さらに反射指数μの符号反転によって,キラリティーにより強弱の関係が逆転することを示している.14これは図7に示したベルリナイトの実験結果)から明らかである.(b)式(18)は回折強度は方位角Ψに関して3回対称であることを示している.これは空間群の対称性から明らかである.また方位角の方向がキラリティー反転または反射指数μの符号反転で反転することを示して18いる.この実験事実は論文)に示した.また,図7に示した水晶の方位角の実験結果はφ≠0であることを示している.(c)式(20)は入射X線が直線偏光成分P 3を含まない場合(P3=0),I1(+ν,±P2)=I 1(-ν,±P2)となることを示している.図7では,白抜きのマーク同士,塗りつぶしたマーク同士の比較になるが,位相のずれφが大きいためわかりにくい.しかしDyFe 3(BO 3)4の実験結果では明瞭に見られる.19)(d)同様に式(20)はP 3=0の場合,I1(+μ,±P2)=-I 1(-μ,±P2)となることを示している.これは,図7に示したベルリナイトの実験20結果およびテルルの実験結果)から明らかである.さらに興味深いのは,式(18),(19),(20)は2つの四極子モーメント〈T+2〉′,〈2 T+1〉″を2未知数として記述されていることである.したがって,方位角依存性の結果からこれらの四極子モーメントを符号も含めて取り出すことができる.例えば,DyFe 3(BO 3)4の実験結果ではDyの4f軌道の四極子モーメントを導出することに成功した.19)6.おわりにわれわれは,単純な鉱物である水晶を用いて,円偏光X線による共鳴X線回折実験を行い,結晶のキラリティーとX線のヘリシティが結びつく反射があることを見出した.今回,発見された方法は分散補正を用いる方法以外の新しい結晶キラリティーの決定方法として確立されると期待される.また,生化学分子,液晶,強誘電物質や複合機能物質などに応用できると期待される.本研究に当たりイギリス,ラザフォードアップルトン研究所のS. W. Lovesey,K. S. Knightの各氏,理化学研究所,励起秩序研究チームの故高田恭孝,A. Chainani,大浦正樹,田口宗孝,辛埴の各氏,高輝度光科学研究センターの竹内智之,仙波泰徳,大橋治彦の各氏にご協力をいただきました.本稿では記述を省きましたDyFe 3(BO 3)4のキラルドメインの研究では,東京大学の木村剛教授,阪大基礎工学研究科の学生であった薄井智靖氏,中島宏氏との共同研究を行いました.これらの方々のご尽力の結果,このような研究成果をあげることができました.この場をお借りして,皆様に心から感謝の意を表します.文献1)J. M. Bijvoet: Nature, 168, 271(1951).2)http://skuld.bmsc.washington.edu/scatter/AS_index.html3)D. H. Templeton and L. K. Templeton: Acta Crystallogr. A 36, 237(1980).4)V. E. Dmitrienko: Acta Crystallogr. A 61, 481(2005).5)S. W. Lovesey et al.: Physics Reports, 411, 233(2005).6)J. J. Sakurai: Advanced Quantum Mechanics, Addison-Wesley, NewYork(1967).7)L. D. Landau and E. M. Lifshitz: Quantum Electrodynamics, vol.4,2nd ed., Pergamon Press, Oxford(1982).8)J. Als-Nielsen and D. McMorrow: Elements of Modern X-rayPhysics, John Wiley & Sons, Ltd., New York(2001).9)B. E. Warren: X-ray Diffraction, Dover Publications, Inc., NewYork(1990).10)S. W. Lovesey and S. P. Collins: X-ray Scattering and Absorption byMagnetic Materials, Oxford Science Publications(1996).11)T. Takeuchi et al.: Rev. Sci. Instrum., 80, 023905(2009).12)K. Shirasawa et al.: Phys. Rev. ST Accel. Beams, 7, 020702(2004).13)Y. Tanaka et al.: Phys. Rev. Lett. 100, 145502(2008).14)Y. Tanaka et al.: Phys. Rev. B 81, 144104(2010).15)Y. Tanaka and S. W. Lovesey: Euro. Phys. J. Special Topics 208, 67(2012).16)S. W. Lovesey et al.: J. Phys.: Condensed Matter 20, 272201(2008).17)H. Nakajima et al.: Phys. Rev. B 93, 144116(2016).18)Y. Joly, Y. Tanaka et al.: Phys. Rev. B 89, 224108(2014).19)T. Usui, Y. Tanaka, et al.: Nature Materials 13, 611(2014).20)Y. Tanaka et al.: J. Phys.: Condensed Matter 22, 122201(2010).プロフィール田中良和Yoshikazu TANAKA理化学研究所,放射光科学研究センターRIKEN SPring-8 Center〒679-5148兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1Kouto 1-1-1, Sayo, Sayo, Hyogo 679-5148, Japane-mail: ytanaka@riken.jp最終学歴:東京大学大学院工学研究科工学博士専門分野:放射光物性現在の研究テーマ:キラリティードメイン観察と制御184日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)