ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

円偏光を利用した共鳴X線回折によるキラリティー観察子化軸(ξ,η,ζ)は,それぞれのSi原子の周りで局所的に定義される.例えば座標(x _,x _,0)にあるSi原子については,ζ軸は結晶のc軸に平行,ξ軸は2回軸[1,1,0]に平行と定義できる.水晶の反射00lの結晶構造因子テンソルは一般的な多極子モーメント〈T K Q〉から次のように求める.まず(x _,x _,0)上のSiの多極子を〈T K Q〉とする.(x,0,±1/3),(0,x,?1/3)の位置の多極子はそれぞれc軸回りの±120°の回転によって,それぞれ〈T K Q〉exp(2πiQ/3),〈T K Q〉exp(-2πiQ/3)と与えられる.これによって反射00lに対する結晶構造因子テンソルは,GKQ{ }K2πiQ/ 32πi(±l/ 3) ?2πiQ/ 32πi( ?l/ 3)Q= T 1+ e e + e e日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)(9)と表される.右水晶はl+Qが3の倍数のとき反射が観測され,左水晶はl-Qが3の倍数のとき反射が観測される.これが,共鳴X線回折における空間群#152と#154の消滅則である.右,左の構造の違いがQの符号となって表されている.またこの式からQ=0の多極子成分〈T K 0〉は通常の消滅則に従い,禁制反射00lには含まれないことがわかる.さらに,Si原子は2回軸の上にあることから,多極子は180度回転して元に戻らないといけない.したがって,図3に示した四極子モーメント成分のうち〈T 2+1〉′と〈T 2+2〉″はゼロである.ここで図3のx軸を2回軸と考えている.簡単のために,(x _,x _,0)上のSiの原子散乱長テンソルf1を,? f f ff1 = ?? f f f??f f fξξξηξζξηηηηζξζηζζζ?????(10)と対称行列で定義する.ここで図4に示したように,このSi原子の量子化軸ζ軸を結晶のc軸および散乱ベクトルKに平行,ξ軸を2回軸[x _,x _,0]に平行とする.さて,水晶の結晶構造はc軸に垂直な3つの2回軸がある.Si原子はすべてその2回軸の上にある.ξ軸は2回軸であるから,このテンソルをξ軸回りに180度回転しても元に戻らないといけない.したがって,? f ?f ?f?1 ?Rξ(π) f1Rξ(π)= ? ? f f f??? f f fξξξηξζξηηηηζξζηζζζ??? = f(11)1??が要請される.ここで,Rξ(π)はξ軸回りの180度の回転行列である.この結果,(x _,x _,0)の位置にあるSiの原子散乱長テンソルは,f1? f?= ? 0??0ξξfνf0 0ηηηζνffηζζζ?????(12)となる.(x,0,±1/3)と(0,x,? 1/3)の位置にあるSiの原子散乱長テンソルは,このテンソルをそれぞれ120度,-120度,ζ軸回りに回転することによって,f2=Rζ(2π―3)f 1Rζ-1(2π―3),f3=Rζ(-2π―3)f 1Rζ-1(-2π―3)と与えられる.Rζ(2π―3)はζ軸回りの120度の回転行列.ここでキラリティーを表すパラメータνを導入した.右結晶はν=+1,左結晶はν=-1である.fηζにνをつけた理由は,右水晶と左水晶を1つの式で表すためである.右水晶と左水晶は鏡像の関係であるので,局所的な右手系の量子化軸(ξ,η,ζ)で定義されたQηζの符号が,右水晶と左水晶でお互いに逆であることを示している.この3つの原子散乱長テンソルを位相を含めて足し合わせると,反射00l,l=3n+μ,μ=±1の結晶構造因子テンソル,2πμνi / 3 ?2πiμν/ 3G00l= f1+ f2e+ f3e? Ta ?iμνTa ?iμTb???=?iμνTa ?TaνTb?? ?iμTbνTb 0 ??(13)が得られる.ここでT a=3―4(fξξ-fηη)=3―2Qξ2-η2,Tb=3―2fηζ=3―2Qηζと定義した.式(13)は方位角Ψ=0の結晶構造因子テンソルであるから,さらにz軸回りの回転(G 00l(Ψ)=R z(Ψ)G 00l(0)R z-1(Ψ))を行えば,方位角に依存した結晶構造因子テンソルが得られる.偏光に対する結晶構造因子Gα′βは,式(5)のように積Gα′β=ε(α)′G 00l(Ψ)ε(β)を計算して,i + aG = T ae ( 2Ψ)(14)σσ′λφi + aG = T asin 2θe ( 2Ψ)(15)ππ′λaG = iλsinθT e + cosθνTeπσ′aG = iλ? sinθT e + cosθνTeσπ′φi( 2λΨ+φ){ ab?i(λΨ?φb)}i( 2λΨ+φ){ ab?i(λΨ?φb)}(16)(17)と与えられる.16),17)ここでθ,Ψは図4に示したブラッグ角と方位角である.簡単のためパラメータλ=μνを導入した.さらに位相因子exp(iφa),exp(iφb)を導入した.18)これらの位相因子は共鳴散乱の式(3)において四極子〈T 2+2〉′と〈T 2+1〉″に対する遷移エネルギーが若干異なることによって生じると考えられる.この位相因子によって水晶の方位角依存性の実験結果をよく説明できる.これらの結晶構造因子を式(7)に代入すると回折強度がI = I + I cos (λΨ+φ)(18)0 1312 2 2 2 2I0= {( TaTb2 1 + sinθ) + 2 cosθ2 2 2+ P3( 1+sinθ)cosθTa}2 2+λPsinθ( 1+ sinθ) T a(19)2I = ( 2νP sinθcosθ?μP cosθ) T T(20)1 3 23と与えられる.17)ここでφ=1―3(φa-φb)を導入した.これらの式は水晶に限らず空間群#152,#154に対しa b183