ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

田中良和吸収スペクトルはそれぞれ蛍光X線収量で測定した.実験に用いたX線の偏光度は,AlのK吸収端E=1567 eVでは,(P 1=0,P2=±0.95,P 3=+0.30),SiのK吸収端E=1848 eVでは(P 1=0,P2=±0.95,P3=-0.31)である.水晶およびベルリナイトの吸収スペクトルはそれぞれの吸収端E=1848 eV,E=1567 eVでピークを示している(図6c,d).禁制反射001は,その近傍のAlまたはSiのK吸収端近傍の狭いエネルギー領域においてのみ観測されている.水晶の場合は,2θ-θプロファイルに示したように結晶のキラリティー(+),(-)とX線のヘリシティ(+),(-)の関係が(+,+)と(-,-)ならば同じ強度となり,(-,+)と(+,-)も同様に同じ強度となっていることがわかる.この結果,円偏光X線による共鳴Integrated Intensity [arb. units]Integrated Intensity [arb. units]1.00.80.60.40.20.08.06.04.02.0(a) L berlinite(b) R and L quartz002 Helicity +001 Helicity ?001 Helicity +002 Helicity ?L quartz helicity ?L quartz helicity +R quartz helicity +R quartz helicity ?0.0-90 -60 -30 0 30 60 90Azimuthal angleΨ[degree]図7(a)ベルリナイトの禁制反射001(青丸)と002(赤四角)および(b)右水晶(赤三角),左水晶(青丸)の001反射の積分強度の方位角依存性.(Integratedintensity of left-Berlinite, left- and right-quartz as afunction of azimuthal angleΨ.)いずれも白抜きになっているほうが,入射X線の円偏光のヘリシティが(+),塗りつぶしてあるほうがヘリシティが(-)である.方位角の原点(Ψ=0°)は,逆格子ベクトルa *が散乱面に対して垂直であるとき(σに平行となるとき)とした.この場合,Ψ=30°のときに,結晶の実空間における2回軸が散乱面と垂直になる.また方位角の回転方向は観測者が散乱ベクトルK=ki-kfの指す方向を向いたときに,反時計回りとなる方向が+である.Ψ=30°が式(18)の原点である(Ψ理論=Ψ実験-30).編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.X線回折が結晶のキラリティーを判別できることは明らかである.左ベルリナイトではヘリシティ(-)が反射強度が強く,ヘリシティ(+)では弱い.この関係は左水晶でも成り立っている.後で述べるようにこの関係は結晶の種類に関係なく空間群#152,#154に対してユニバーサルに成り立つ.共鳴X線回折で観測される軌道あるいはスピン秩序による禁制反射は強い偏光依存性をもつ.そのために,回折強度は方位角Ψの関数となる.図7にベルリナイトの禁制反射001と002および右,左水晶の001反射の積分反射強度の方位角依存性を示す.それぞれ,入射X線の円偏光のヘリシティを(+),(-)で測定した.入射X線はそれぞれ,AlのK吸収端E=1567 eV,SiのK吸収端E=1848 eVにエネルギーを合わせ,円偏光のヘリシティの符号を入れ替えて測定した.方位角依存性は,結晶の空間群を反映して120°の周期構造となっている.5.円偏光X線によるキラリティー判別なぜ円偏光X線がキラル構造をみることができるのであろうか.円偏光のヘリシティと結晶のキラリティーとの結合は,式(7)の第3項P 2に係る項である.この項は入射X線のσ偏光とπ偏光がE1E1遷移によってそれぞれ偏光を回転し(π→σ′,σ→π′),反射X線がそれぞれσ′偏光,π′偏光で干渉し合う項である.第2.3節で説明したa,b,c,d,e,f,g,hを使えば,P2=+1のとき(-af+be+ch-dg)であり,P 2=-1のとき(af-be-ch+dg)となる.以下にキラリティー構造の向きによってGπ′σ,Gσ′πの符号が反転することを示す.また図7で示した方位角依存性についても説明する.共鳴X線回折の反射強度Iは次のように求められる.まず結晶構造因子テンソルG K Qは,単位胞内に含まれる共鳴原子の原子散乱長テンソルの位相を含めた和として計算される.次に結晶構造因子テンソルG K Qから,それぞれの偏光に対する結晶構造因子Gα′βが求められる.最後にそれぞれの偏光に対する結晶構造因子Gα′βを式(7)に代入すれば,反射強度Iが得られる.右水晶,左水晶の結晶構造はお互いに鏡像となっている.空間群はそれぞれ#152,#154である.以下に記述する共鳴X線回折の計算はSi原子だけの共鳴効果によって導かれるので,酸素原子は無視する.禁制反射00l(l=3n+μ,μ=±1,nは整数)を次のように説明する.禁制反射を取り扱うので式(5)に表したテンソルのトレース成分は式(8)に従って消滅する.また水晶は磁気秩序をもたないので,非対称成分は無視できる.結局,原子散乱長として式(5)に表したテンソルに含まれる5つの独立な四極子モーメントで禁制反射を記述できる.それらは図3に示したSiの励起軌道3pの四極子モーメントQ 3ζ2-r2,Qζξ,Qηζ,Qξ2-η2,Qξηである.添え字に用いた量182日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)