ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

円偏光を利用した共鳴X線回折によるキラリティー観察定義にのっとり右ねじ巻きを右水晶と定義する.これらの空間群は三方晶系に属し,鏡映面はないがc軸に垂直な方向に2回軸はある.三方晶なので実格子,逆格子ともにc軸に対して3回回転対称性があり,6回回転対称性はない.3回回転対称性といってもc軸は,31,32らせん軸(screw axis)なので,それぞれ結晶を120度あるいは240度回転しただけで,結晶は元の構造に一致するのではなく,その後c軸に沿ってc軸格子定数cの1/3だけ移動する操作によって,元の結晶構造に重ね合わせることができる.4.実験方法と結果4.1実験装置共鳴X線回折を水晶やベルリナイトに適用する場合,SiのK吸収端,AlのK吸収端を使う.これらのエネルギーは,2000 eVより低く軟X線の領域になる.このような軟X線を用いる回折実験では,空気による散乱を防ぐために超高真空チェンバーを使う必要がある.2007年,われわれは放射光施設SPring-8のビームライン17SU11に軟X線回折装置)を設置した.円偏光の極性はアンジュレータの電磁石で切り替えられる.12)回折装置の回転ステージθ,2θ軸は超高真空チャンバーの外に置かれているが,差動排気システムを導入しているため,回転によって内部の超高真空(真空度10-8 Pa)が破れることはない.4.2実験結果右(#152),左水晶(#154)は,(001)面で研磨されている市販のものを購入した.ベルリナイト結晶は,D.F. Croxall氏が作製したものである.まず水晶のキラリティーをあらかじめ決めるためにHe-Neレーザー光(λ=633 nm)を用いて旋光性を確認した.レーザー光が右,左の水晶を透過するとき,その偏光面がそれぞれ(観測者と光源の間に結晶を置いて,観測者の視線を光源に向けると)反時計,時計方向に18°/mm回転することを確認した.ベルリナイト結晶を透過したときは反時計方向に14°/mm回転することを確認した.すなわち今回の実験で用いたベルリナイト結晶は,空間群#154,左ねじ巻きであることを示している.右ベルリナイト結晶は入手できなかった.さて,共鳴X線回折の消滅則は通常のX線回折の消滅則とは異なる.簡単のために酸素は無視した,右,左水晶の結晶構造因子は以下のようになる.単位胞内のSiは,3aサイト(x _,x _,0),(x,0,±1/3),(0,x,?1/3)の位置にあるので(複符号の上の符号が右水晶,下の符号が左水晶を表している,以下の記述においてもこの約束を用いる),反射指数00lに対する結晶構造因子Gは,f SiをSiの原子散乱長とすると,G{ }00 l 2πfi 0 2πi (±l / 3) 2πi ( ? l / 3)=Sie + e + e(8)と表せる.この場合lが3の倍数以外は位相が相殺するので反射強度はゼロである.しかし,共鳴X線回折の場合は狭いエネルギー領域で,式(5)の非対角成分が存在する.それがこの消滅則を破る.したがって,SiのK吸収端近傍でlが3の倍数以外の反射が許容される.図6に円偏光X線で測定した禁制反射001の円偏光ヘリシティ依存性,エネルギースペクトルを示す.13)-15)X線(a)Left quartz(ー)(+)Right quartz(+)(ー)(b)(?)(+)Intensity [arb. units]75.2 75.4 75.62θ[degree]0.70.60.50.40.30.20.1(c)75.2 75.4 75.62θ[degree]XASReflection 001 (Ψ= 20)Intensity [arb. units]1.00.80.60.40.2(d)θXASReflection 001 (Ψ図60.00.01840 1845 1850 1855 1860 1865 1560 1565 1570 1575 1580 1585Energy [eV]Energy[eV]左-,右-水晶,および左-ベルリナイトの禁制反射の反射強度.(Intensityofforbiddenreflectionsofleft-andrightquartzand left-Berlinite.)(a)Ψ=30,E=1848 eVにおける右水晶,左水晶の001禁制反射の2θ-θプロファイル.(b)Ψ=0,E=1567eVにおける左ベルリナイトの001禁制反射の2θ-θプロファイル.(+),(-)はX線のヘリシティを表している.(c),(d)それぞれ左水晶,左ベルリナイトの禁制反射001の積分強度(赤丸)と蛍光X線収量で測定したX線吸収曲線(XAS,青丸).左水晶と左ベルリナイトの積分強度反射001はそれぞれ方位角Ψ=20°,0°で測定した.編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)181