ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

円偏光を利用した共鳴X線回折によるキラリティー観察起する(Δl=±1).例えば,SiのK吸収端におけるE1E1遷移による共鳴回折では,1s軌道から3p軌道への励起となる.式(4)の第1項より,双極子遷移E1E1遷移による共鳴散乱の原子散乱長f resは,入射X線の偏光ベクトルε(β)=(εx,εy,εz),散乱後の偏光ベクトルε(α)′(=ε′x,ε′y,ε′z)および2階テンソルf ij,(i,j=x,y,z)を用いて,? f f f?fres = (ε′x,ε′y,ε′z) ? f f f??f f fxx xy xzyx yy yzzx zy zz??εx ?????εy????ε?z ?(5)で表される.この2階のテンソルf ijは3×3の成分で表され合計9個の成分がある.これを1つのトレース成分,3つの非対称成分,5つのトレースゼロの対称成分に分けることができる.トレース成分は式(1)の分散補正項f′+if″にあたる.非対称成分は共鳴磁気散乱に寄与する項であるが,磁気秩序がない場合は無視できる.通常のX線回折の偏光因子を含めた原子散乱長f normalは,トレース成分だけがあるので? f 0 0??εx ?fnormal = (′x,′y,′? ??? (α)εεεz)0 f 0εy= fε′(β)?ε(6)?? 0 0 f ?????εz ?である.式(5)のテンソルから導かれる5つのトレースゼロの対称成分は原子の励起軌道の四極子モーメントの5つの成分に相当している.通常のX線回折と共鳴X線回折の本質的な違いは,非対角項があるかないかということである.この非対角項こそが共鳴原子の局所環境に依存しており,キラリティーの判別を可能にする.2.2四極子モーメント原子の周りの電荷分布ρ(r)は近接原子との結合があるため,球状に広がっているわけではない.それを球面調和関数を使って,ρ(r)=Σl,mρlm(r)Y l(r?)(m-l ?m ? l)と展開できる.ここでρlm(r)は多極子モーメントmである.これは,逆にρlm(r)=∫ρ(r)Y l(r?)dr? *で求められる.ここでr?は,動径方向の単位ベクトルである.例えば,直交座標系で表現した双極子はμi=∫ρ(r)r idr,四極子はq ij=∫ρ(r)(3r ir j-δijr 2)dr(r i,j=x,y,z)である.われわれは多極子モーメントρlm(r)を球面テンソルT K Qの期待値〈T K Q〉で表現する.〈T K Q〉は複素数〈T K Q〉=〈T K Q〉′+i〈T K Q〉″である.球面テンソルは,球面調和関数とT K Q=Y l(r?),(m m=Q,l=K)の関係にある.ここでKはテンソルの階数,Q(-K ? Q ? K)は磁気量子数である.図3に球面テンソルT K Qの期待値で表した四極子モーメントの5つの成分を示す.この図では正の成分を示した.色の濃い部分と薄い部分を入れ替えると負の成分になる.直交座標系の指数を用いた表記と,式(5)のテンソル成分との関係は,Q 3z 2-r2=―1 2(2f zz-f xx-f yy),Q x 2-y2=―1 2(f xxfyy),Q yz=f yz,Q zx=f zx,Q xy=f xyである.日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)図3〈TQK〉で表した四極子モーメントの5つの独立成分.等しい値を示す曲面で表現した.(An illustrationoffive components of a quadrupole moment.)色の濃い部分は正電荷,薄い部分は負電荷である.Q 3z 2-r2,Q x 2-y2,Q yz,Q zx,Q xyは直交座標系の指標を用いた表記であり,すべて実数である.(+)(-)x図4ブラッグ回折の模式図と右手系座標軸.(An illustrationof the diffraction geometry.)散乱ベクトルK=ki-k fはz軸と平行.記号(+)と(-)は,入射X線の円偏光の偏光度ヘリシティを表している.kiとkfは,それぞれ入射X線,反射X線の波数ベクトル,θはブラッグ角である.入射X線および反射X線の偏光は,それぞれ単位ベクトルσ,πおよびσ′,π′で表される.σ=σ′=(1,0,0),π=(0,sinθ,-cosθ),π′=(0,-sinθ,-cosθ)である.Ψは方位角である.方位角Ψとは,散乱ベクトルKの回りの試料の回転角のことを指している.(ξ,η,ζ)は,以下に展開する理論のΨ=0における局所的な量子化軸である.2.3共鳴X線回折における偏光依存性本稿では,量子力学の定義に従って光のヘリシティ(角運動量)=+1を右円偏光,ヘリシティ=-1を左円偏光と呼ぶ.光学ではこれと逆の定義が使われる.角運動量=+1の光(右円偏光)は,時間を止めて電場ベクトルの空間軌跡を眺めると左ねじである,しかし,観測者がある地点で光の進行方向に向かって電場の時間変化を観察したとき,電場ベクトルが時間の経過に従って時計回りに回転するように見える.ランダウ・リフシッツ7)によればヘリシティ(+),ヘリシティ(-)を偏光ベクトルε+,ε-で表す[ε+=-i/√2(σ+iπ),ε-=+i/√2(σ-iπ)].偏光ベクトルσ,πと波数ベクトルkは,右手系の直交関係にある(k/k=σ×π).図4にこれらのベクトルの関係zy179