ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

ページ
20/72

このページは 日本結晶学会誌Vol60No4 の電子ブックに掲載されている20ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No4

葛西裕人,明石哲也,太田慶新,原田研図5偏向器を用いた位相シフト法の干渉光学系.(Interference optical system of phase shifting methodusing electron beam deflector.)偏向角度ζ0に依存する.偏向を与える像面と干渉縞のシフトを検出する像面との間の倍率Mを考慮して,検出像面での偏向角度ζは式(10)で,位相のずれ量Δφは式(11)で表される.ζζ= 0MD??πγ? D= 2 = 2πγζ0λλM(10)(11)上像面偏向による位相シフト法は,装置の機械的な移動を伴わないため,高精度な制御が可能である.以上いずれの方法でも電子波への偏向作用は対物レンズを透過した後に加えられるため,従来法(2)で指摘した,取得する画像ごとに対物レンズの収差の影響が異なる問題点も回避されている.2.5像面偏向による位相シフトの例図6に像面偏向によって生成した位相シフトの一例を示す.試料は図1と同じMgO微結晶,装置は1 MV電界27放出形電子顕微鏡)を用いた.縞1本分の変位に要する偏向器への印加電圧は200 mV程度であった.図6a~dは,偏向器への印加電圧を50 mV(初期位相:π/2,π,3π/2,2π)ずつ増加させた4枚の干渉顕微鏡像(ホログラム)である.図6の上下の図では,縞の位相がちょうどπだけずれているので,試料の像はそのままに,干渉縞の明暗のみが反転している.位相シフト法では,このように試料の像には変更を加えず,干渉縞の位置だけを変化させることが必要である.この意味では,位相シフト法図6位相シフトさせたホログラムの例(MgO微結晶).(Examples of four electron holograms with differentinitial phase(material:MgO fine crystals).)(a)初期位相π/2,(b)π,(c)3π/2,(d)2π.各ホログラムにフレネル縞(図1参照)が観察されないのは2段電子線バイプリズム干渉光学系の採用による.は単純な再生手法ではなく,記録系を含めたシステムと考えるべきである.3.位相シフト法による再生法3.1一般的な位相シフト法による再生法電子線ホログラフィーにおける位相シフト法では,先述の式(4)で示した試料像に重畳された干渉縞からなるホログラムにおいて,干渉縞の位置を変化させた複数枚の一連のホログラムのうちm番目のホログラムの強度分布をIH(x,y,m)とおくと,一般的には式(12)で表される.I ( x, ym , ) = ? ( xy , ) + 1HO21+ ?O( xy , )cos[ηO( xy , ) ? 2πR0xx?φ( m)](12)2ここでφ(m)は変調を受けた位相量を表すバイアス項である.このφ(m)をm番目のホログラムの初期位相と呼ぶ.一般的にはこの初期位相項は物体波と参照波の位相差を規則正しく2π/m(ここでm≧3)ごとに変化させた値で与えられる.2π/mの変位量でm段階に干渉縞の位置を変化させて記録された各々のホログラムに対して,sin(2π/m)およびcos(2π/m)の重みをかけて積算し,それぞれの強度分布の逆正接を取ることによって位相分布像ηO(x,y)を,二乗和を取ることによって振幅分布像φO(x,y)を得ることができる.先述のとおり,位相分布像中に含まれる搬送周波数による位相項2πR 0xxについては容易に補正可能であり,補正後の位相分布を式(13),振幅分布を式(14)にて示した.172日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)