ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

ページ
19/72

このページは 日本結晶学会誌Vol60No4 の電子ブックに掲載されている19ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No4

電子線ホログラフィーにおける位相シフト法図4伝播角度の偏向と干渉縞の変位の関係.(Relationshipbetweendeflectionangleofpropagatingbeamsanddisplacement of interference fringes.)(a)偏向無しの場合,(b)電子線バイプリズムの位置移動による偏向の場合,(c)直接電子線に偏向を加えた場合動させる方法17),18)2試料の像面で電子線を偏向させる方法21),22)以下,順に説明する.2.3電子線バイプリズムの移動による位相シフト法2段電子線バイプリズム干渉光学系における位相シフト法のうち,下段のバイプリズムを用いて縞の位相シフトを発生させる方法について,改めて図4bを用いて説明する.下段のフィラメント電極が光軸から水平右方向にδだけ移動すると下段のフィラメント電極直上の2つの光源は(L/D)δだけ図中右方向に移動し,相対する偏向角度γはそのままで光軸に対して非対称な位置にシフトする.この下段のバイプリズムの移動に伴う電子線の伝搬角度の偏向量ζは式(8)で,干渉縞の位相のズレ量Δφは式(9)で表される.δζ=(8)L図4bは,電子線バイプリズムの位置を光軸垂直方向(図中右方向)に距離δだけ移動させたときに,物体波と参照波の両方に生じる光軸に非対称な伝搬角度ζ=δ/Lによる干渉縞のシフトΔsの様子を,図4cは,図示は省略しているが図中のクロスオーバーよりも上流側で電子線が偏向されて非対称な伝搬角度ζが加えられた時の干渉縞のシフトの様子を示している.2つの光源は図中右方向に移動して光軸に対して非対称となっているが,2つの光源が像面上に成す角度γには変化がない.そのため近軸近似の成立する範囲内では,干渉縞間隔sは式(5)で与えられたものと同じである.しかし,各クロスオーバーから像面までの幾何光学距離(r1,r2)は,それぞれの光源位置で異なるため,干渉縞には位置ズレを生ずる.この干渉縞の位置ズレ量をΔs,位相のズレ量をΔφとすると,それぞれ式(6),(7)のごとく電子線へ与えられた偏向角度(非対称な伝搬角度)ζの関数にて表される.?s = D?(6)?sr ??? =π=ππγ?2 22r1D = 2sλλ日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)(7)ここでDはクロスオーバー面から像面までの距離である.このとき,干渉縞を観察している面が試料の像面(インフォーカス)であれば,電子線に与えられた偏向は伝播角度に関するもののみであるため,試料像はまったく変化しない.すなわち,電子線への偏向角度ζを制御することによって,干渉顕微鏡像中の干渉縞だけをシフトさせることが可能となる.図4に示したとおり,2段電子線バイプリズム干渉光学系において位相シフト法を実現するには,以下の2とおりの方法が確認されている.1下段バイプリズムを陰の領域内で光軸に垂直方法に移?? = 2 Dπγ?πγλ= 2 Dλδ(9)LここでLは下段のバイプリズムから像面までの距離である.特に図3に示したごとく,下段のフィラメント電極がクロスオーバーの位置に一致する場合については,L=Dとおくことにより定式化できる.式(9)より,この位相のズレ量Δφは,下段フィラメント電極のシフト量δに比例して変化することを意味しており,下段のフィラメント電極を光軸と垂直な方向に微動させれば,その微動量に応じて干渉縞の位相変化が可能であることを示している.このため下段フィラメント電極の機械的微動精度は,干渉縞の走査精度に直接反映される.2.4像面偏向による位相シフト法次に,2段電子線バイプリズム干渉光学系における偏向光学系を利用した位相シフト法について述べる.図5に上下2段のバイプリズムの間の第2像面に縞の位相シフトのための偏向器を設置した干渉光学系を示す.上段のバイプリズムと偏向器とはどちらも試料の像面に配置されているため互いに共役な関係にあり,その位置を入れ替えることは容易に可能である.すなわち,図5は一例に過ぎず,偏向を与える位置は,原理的には試料の像面であれば電子顕微鏡の光学系のどこに配置してもよい.さて,第2像面にて物体波と参照波の両電子波に対して同一の偏向(角度ζ0)が加えられると,それに伴って両波のクロスオーバー(光源の像)は,光軸から同方向(図中右側)に同距離だけ移動する.したがって,光軸に対して非対称な伝播角度をもつ物体波と参照波が作成される.図4cに示したとおり,光軸に対して非対称な2つの光源から像面までの幾何光学距離は異なり,結果として物体波と参照波の位相差は偏向器により与えられた171