ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

葛西裕人,明石哲也,太田慶新,原田研な微動精度を有していない.さらに,上記(1)~(3)の方法を従来型の電子線干渉光学系で実施した場合には,ホログラムに重畳されたフレネル縞(図1参照)も追随して移動するため,その成分が新たなアーティファクトとして再生像に含まれてしまう.そのため,電子線ホログラフィーにおける位相シフト法は,その原理から期待されるほどの精度が得られないでいた.しかしながら,フレネル縞の発生の回避を特長とする2段電子線バイプリズム干渉光学系の19開発)により上記の課題は解消され,現在は真空領域であれば,1000分の1波長以下の位相検出精度の実現に至っている.20)本稿では位相シフト法を実現するための2段電子線バイプリズム干渉光学系の採用を前提とし,電子線ホログラフィーにおける位相再生法として2通りの位相シフト法を紹介する.1電子線バイプリズムの光軸垂直方向へ18の移動による位相シフト法)と2像面への偏向光学系21),22の付加による位相シフト法)である.さらに一般の位相シフト法における,試料に重畳される干渉縞の変位量は規則正しく等間隔でなければならないという制約13),23),24から開放する再生解析法)についても併せて紹介する.なお,ホログラム自体を干渉縞に垂直方向にシフトさせて,本稿で説明する位相シフト法と同じアルゴリズム25により再生する手法(ホログラムシフト法))も開発されているが,干渉縞の間隔が変調されている部分(試料内など)では,大きなアーティファクトを生じさせるため普及していない.そのため,本稿ではホログラムシフト法を位相シフト法には含めない.2.位相シフト法と2段電子線バイプリズム干渉光学本稿では電子線ホログラフィーにおける位相シフト法を実用化するために,物体波と参照波の位相差を高精度に制御する方法・手段を紹介する.とりわけ,2段電子線バイプリズム干渉光学系における実施を念頭においている.2.1 2段電子線バイプリズム干渉光学系19)図3に2段電子線バイプリズム干渉光学系の光学系を示す.2段電子線バイプリズム干渉光学系では,上段のバイプリズムのフィラメント電極を試料の像面に配置し,下段のバイプリズムのフィラメント電極を上段のフィラメント電極の陰の領域に入れる.特に図3においては,下段のフィラメント電極がクロスオーバーの位置に一致する特別な場合について描画していることに注意されたい.この構成により2段電子線バイプリズム干渉光学系では,各々のバイプリズムにより,物体波と参照波の重畳する領域と2波の相対的な伝播角度を独立に制御することが可能であり,ホログラムにとって重要な図3 2段電子線バイプリズム干渉光学系.(Optical systemof double-biprism electron interferometry.)パラメータである干渉領域幅Wと干渉縞間隔sとを任意に設定できる.さらに,1段の電子線バイプリズム干渉計では,原理的に不可能だったホログラムへのフレネル縞の重畳を防ぐことができる.位相シフト法においてはフレネル縞が及ぼすアーティファクトが大きな課題であり,これが電子線ホログラフィーにおける位相シフト法の普及を妨げる1つの要因であった.この2段電子線バイプリズム干渉計により位相シフト法の実用化に目処が得られた.なお,上述の干渉光学系は電子線だけでなくX線においても有効性が確認されている.26)2.2位相シフト法の原理本稿で紹介する物体波と参照波の相対位相差を高精度に制御する方法の原理は,物体波と参照波のクロスオーバー(光源の像)を光軸に対して非対称な位置に移動させる点にある.2波の位相差を制御する原理を,図4を用いて説明する.図4aは光軸に対して対称な位置に置かれた2つの光源(クロスオーバー)によって干渉縞が形成される様子を示している.2つの光源は,例えばバイプリズムによって分離・偏向された光源(クロスオーバー(図3参照))がこれにあたる.2つの光源が像面上に成す角度をγ,電子線の波長をλとするとき,干渉縞間隔sは式(5)のごとく表される.そして,2つの光源が光軸に対して対称位置に存在するときには,干渉縞は光軸に対して左右対称に現れる.s =λ(5)γ170日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)