ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

電子線ホログラフィーにおける位相シフト法波はx軸方向に角度αだけ傾斜して伝搬する均一な振幅分布をもつ平面波とし,傾斜角度αを搬送空間周波数R 0x(=sin(α/λ))を用いて表式すると,ホログラムの強度分布は式(4)となる.ここでの搬送空間周波数とは,像に重畳されている干渉縞の間隔に対応する.I ( x, y) = |φ( x, y)|+ 1HO21+φO( xy , )cos[ηO ( xy , ) ? 2πRoxx](4)2式(4)より,ホログラムI H(x,y)は物体の像|φO(x,y)|2に,物体を透過した波の位相分布ηO(x,y)で変調を受けた間隔1/R 0xの干渉縞が重畳されたもの(干渉顕微鏡像)であることがわかる.この『試料の像と重畳された干渉縞』が電子線ホログラムを特徴付けている.なお,式(4)の余弦項を位相分布とした再生像には-2πiR 0xxの成分が含まれるが,これは参照波の傾斜に起因したもので再生後に容易に補正可能である.すなわち,式(4)で表されるホログラムは再生処理により,物体波の位相分布ηO(x,y)が得られる.このようなある対象とそれに重畳された縞模様からなる像を用いてその対象の情報を読み取る手法は,縞解析法として古くから知られている.例えば格子模様を対象に投影し,格子の歪み具合から対象物の表面形状を知る手法(モアレトポグラフィー(非接触三次元形状測定法)3),4))などである.計測対象物とそれに投影された格子模様の関係は,図1に示した電子線ホログラムにおける試料の像と重畳された干渉縞の関係に該当するので,縞解析の手法はそのままでホログラムの位相解析法(位相像再生法)に流用できる.そのため,コンピュータが普及し始めた1980年代より,縞解析の手法を用いた電子線ホログラフィーの再生が実施されるようになった.5)-12)コンピュータを用いた縞解析法としては,光学系を模したフーリエ変換法が比較的簡単で一般にも普及している.4)-6)その方法とは,フーリエ変換法では電子線ホログラムを回折格子としてとらえ,フーリエ変換により透過波の空間周波数成分と2つの回折波の空間周波数成分とに分離し,1つの回折波を選択した後,フーリエ逆変換により対象とする波動場の振幅・位相分布を得る,というものである.周波数空間での回折波の分離は,搬送空間周波数(ホログラムの干渉縞間隔)に依存するため,フーリエ変換法では再生された波動場の空間周波数は,搬送空間周波数の1/3以下となる原理的な制限(空間分解能が干渉縞の3本分に相当)が存在する.この課題への対策の1つとして,位相シフト法,ある4いは縞走査法(縞解析の分野では格子移動法))が開発されている.この位相シフト法は,計測対象に重畳された縞の位相(縞の相対位置)を変化させた複数の像から,ホログラムの干渉縞間隔に依存しない空間分解能での波日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)図2位相シフト法における3枚のホログラムの一例.(Holograms in phase shifting method with differentinitial phase.)(a)初期位相0π,(b)2π/3,(c)4π/3.動場の振幅・位相分布を得る方法である.13),14)位相シフト法を電子線ホログラフィーで実施するには,試料の像には変化を加えず,縞の相対位置のみを変化させたホログラムを用いる.図2はその手順を示しておりaは基準のホログラムを,bはaのホログラムから縞の位相(相対位置)を縞間隔の2π/3,cはbからさらに2π/3(aからは4π/3)ずらしたホログラムである(カラー表示した縞を参照されたい).詳細は後述するが,図2a~cに示すような縞1本未満の間隔をずらした3枚以上のホログラムを利用することにより,搬送周波数に依存しない位相分布ηO(x,y)を再生することが可能となる.電子線の波長は非常に短いため,上に述べた干渉縞の位置の制御には高度な技術を要するものであり,電子線ホログラフィーにおける位相シフト法は,複数の例はあるものの汎用化には至っていないのが現状である.数少ない従来法の例を以下に紹介する.15)(1)試料の位置を移動させる方法電子顕微鏡の試料微動機構を利用できるため,試料ドリフトを制御できれば精度はナノメートル以下が期待できる.しかし,ホログラム取得後に試料の位置を合わせる処理が必要となり実時間性には欠ける.さらに,試料像の位置合わせの不整合は,最終的な再生像の空間分解能と位相分解能の劣化に直接影響を及ぼす.14),16)(2)電子線の試料への入射角度を変化させる方法入射電子線を光軸から傾斜させることを前提としており,高分解能像観察などにおいては取得するホログラムごとに画像に含まれる収差の影響・回折条件が異なる.そのため,要求される分解能や干渉顕微鏡像の観察目的によっては方法そのものが不適当となる可能性がある.また,高分解能観察など実験条件によって必要となるフォーカスはずれ量は,試料への入射電子線が傾斜している場合には投影像の位置の変化を伴うため,(1)と同様に事後の画像処理を必要とする.(3)電子線バイプリズムを光軸に垂直な水平方向に移動17),18)させる方法電子線バイプリズムには試料微動機構と同程度の微動精度が要求されるが,電子線バイプリズムの基本構造は制限視野絞りを転用している場合が多く,一般には十分169