ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

平林佳図2 SufBCD複合体の全体構造.(Overall structure of theSufBCD complex.)る.そしてSufB/SufC/SufDは,3成分の複合体を形成し(SufBCD複合体),鉄と硫黄を受け取って新しいFe-Sクラスターを組み立てる合成装置として働いている.作られたFe-Sクラスターは,さまざまなFe-Sタンパク質の活性部位に挿入され,各種生体反応系で活躍することになる.われわれは,Fe-Sクラスター生合成反応の実際に迫るため,マシナリーの中心に位置するSufBCD複合体に焦点を当て,その構造機能解析を行った.10)2.4 SufBCD複合体の構造変化と合成反応SufBCD複合体の調製は,SufB/SufC/SufDの遺伝子を共発現させることで,安定な3成分の複合体として精製することができた.さらにサーマルシフトアッセイ(DSF)に基づく安定なバッファー条件の選定などを経て単結晶を取得し,異常分散効果を考慮した多重原子同形置換法によってSufBCD複合体構造を決定した(図2).立体構造を決定したことで,非常に興味深いことが2つ明らかになった.1つ目は,SufBおよびSufDは,長鎖β-ヘリックスと呼ばれる新規構造モチーフであり,Fe-Sクラスター生合成のみに特化した構造であること.2つ目は,3成分複合体の1つSufCが,ABCトランスポーターのATPaseドメインに酷似し,また複合体全体の立体配置もABCトランスポーターと共通していたことである.ABCトランスポーターとは,生体膜輸送を司るタンパク質で,Fe-Sクラスター合成とはまったく関係がない.この発見からわれわれは,SufBCD複合体は,ABCトランスポーターのような立体構造変化によって,Fe-Sクラスター合成を成し遂げているのではないかと考えた.この仮説を実証すべく,立体構造情報から予想されるSufCダイマー会合面にCys残基を変異導入し,架橋実験によって構造変化の中間状態を捕えようと試みた.その結果,ATP依存的に,S-S結合によってダイマー状態がロックされた中間状態SufBCD複合体をトラップすることに成功した.さらに,蛍光ラベル剤を用いて構造変化を追跡したところ,SufCのダイマー化に伴う構造変化で,通常SufB-SufD会合面に埋もれている疎水領域が,図3鉄硫黄クラスター合成反応メカニズム.(Proposedmechanism of Fe-S cluster biogenesis for the SufBCDcomplex.)一時的に大きく露出することも明らかにできた.次に,実証した構造変化と機能発現(Fe-Sクラスター合成)の関連を調べた.われわれはこれまでに,独自に代謝改変した大腸菌を利用したsuf遺伝子群の相補実験系から,SufB/SufDの必須機能残基を同定している.それらに変異を導入したSufBCD複合体について,in vivo Fe-Sクラスター合成能を評価したところ,Fe-Sクラスター合成サイト(SufB-Cys405,SufD-His360)が,構造変化によって露出する領域に含まれることを見出した.得られた結果を総合し,構造変化とリンクしたFe-Sクラスター合成反応メカニズムを提唱した.すなわち,SufCのダイマー化を駆動力としたダイナミックな構造変化によって,SufB-SufD会合面内部に埋もれたFe-Sクラスターの配位子が露出することで,Fe-Sクラスターの合成が達成されると考えている(図3).また最近では,SufBCD複合体と,硫黄の供給源であるSufSE複合体の間の硫黄授受ネットワークの研究にも着手しており,Fe-Sクラスター合成に特徴的な長鎖β-ヘリックス構造は,分子内部に硫黄輸送トンネルを形成するためにも必須である可能性が見えてきている.11)Fe-Sクラスター生合成系の研究は,日々着実に理解は進んでいるが,複数の因子が絡み合う複雑なネットワークの全容解明にはまだまだ至っていない.特にその性質上,実験で扱いにくい鉄に関する分子メカニズムの理解は圧倒的に遅れている.今後も新たな発見が次々と生まれてくることを期待している.文献1)J. Liu, et al.: Chem. Rev. 114, 4366(2014).2)P. Hosseinzadeh, et al.: Biochim. Biophys. Acta. 1857, 557(2016).3)R. Lill: Nature 460, 831(2009).4)A. Dey, et al.: Science 318, 1464(2007).5)J. Frazzon, et al.: Curr. Opin. Chem. Biol. 7, 166(2003).6)L. Zheng, et al.: J. Biol. Chem. 273, 13264(1998).7)Y. Takahashi, et al.: J. Biochem. 126, 917(1999).8)Y. Takahashi, et al.: J. Biol. Chem. 277, 28380(2002).9)U. Tokumoto, et al.: J. Biochem. 136, 199(2004).10)K. Hirabayashi, et al.: J. Biol. Chem. 290, 29717(2015).11)E. Yuda, et al.: Sci. Rep. 7, 9387(2017).166日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)