ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

日本結晶学会誌60,165-166(2018)最近の研究動向金属補因子である鉄硫黄クラスターの機能と生合成メカニズム東京大学大学院農学生命科学研究科平林佳Kei HIRABAYASHI: Functions and Biosynthetic Systems of Iron-Sulfur Clusters1.電子伝達を担う金属タンパク質生体エネルギープロセスは,呼吸や光合成に代表されるように,異なる酸化還元パートナー間での電子伝達を必要とする.金属タンパク質は,生体内において最も広く使用されている電子伝達中心の1つである.ほとんどの金属イオンが酸化還元活性をもつにもかかわらず,生体内の電子伝達プロセスには驚くほど限られた数の金属種しか利用されていない.主要な金属タンパク質は3つのクラスに分類することができ,それはタイプ1銅やCu Aなどを含む銅タンパク質,シトクロムなどのヘムタンパク質,そして鉄硫黄(Fe-S)タンパク質である.1)各クラスのタンパク質は,異なる還元電位(E°)をもった酸化還元パートナーとの間で電子の伝達を行うため,それぞれの電子伝達中心は,パートナーに合わせてE°を調整する必要がある.また1つのクラスだけでは,生理学的に必要とされるE°の全範囲(1V:水がO2に酸化~-1V:プロトンがH 2に還元)をカバーすることはできない.銅タンパク質は通常,高いE°で機能しており,またシトクロムのE°は中間的な値を取ることが多い.一方Fe-Sタンパク質は,低いE°を有する電子伝達反応から,比較的高いE°までより広範な領域をカバーできる万能性をもっている.2)2.鉄硫黄(Fe-S)クラスター2.1 Fe-Sタンパク質の活性部位Fe-Sタンパク質は,細菌から高等動植物までほぼすべての生物に存在し,先に挙げたミトコンドリア/葉緑体における呼吸鎖/光合成電子伝達系のほか,窒素固定,嫌気性代謝などでも電子伝達中心として機能している.また酵素として触媒反応を担うものや,遺伝子発現制御にかかわるFe-Sタンパク質も知られており,酸化還元以外にも多彩な役割を担っている.3)Fe-Sタンパク質の活性部位には,非ヘム鉄と無機硫黄原子からなる金属補因子Fe-Sクラスターが結合している.Fe-Sクラスターにはいくつかのフォームがあり,[2Fe-2S],[3Fe-4S],[4Fe-4S]の形が一般的であるが,鉄以外の金属も含む特殊なクラスターも知られている(図1).日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)図1一般的な鉄硫黄クラスター.(The coordination oftypical three types of the Fe-S cluster in proteins.)ほとんどの場合,Fe-Sクラスターはタンパク質内部のシステイン残基に配位結合しているが,稀にその他アミノ酸残基や低分子に配位することもある.このように,Fe-Sクラスターはそれ自体の型や構造に加えて,それを取り囲むタンパク質の構造やクラスターの配位環境に著しい多様性が見られ,それらがFe-Sタンパク質群の広範囲にわたるE°,また多彩な機能を生み出す要因になっている.4)2.2生合成マシナリーFe-Sクラスターは,試験管内において高濃度のFe 2+とS 2-から化学的に再構成することが可能である.このため,生体内のFe-Sクラスター合成も自発的(非酵素的)に起こるものと考えられてきた.しかしながら細胞内のFe 2+とS2-は,その高い毒性ゆえにきわめて低濃度に制御されており,自発的にFe-Sクラスターが形成されることはない.5)近年になって遺伝生化学的な解析が進み,生体内でのFe-Sクラスター合成にかかわる複雑な多成分酵素系(NIF/ISC/SUFマシナリー)が相次いで発見された.6)-8)この3つのマシナリーは生物界に幅広く分布しており,NIFマシナリーは主に窒素固定細菌に,ISCマシナリーはプロテオバクテリアのα,β,γサブグループから真核生物のミトコンドリアに存在している.中でもSUFマシナリーは,真正細菌全般と,真核生物では葉緑体,さらに古細菌まで3ドメインにわたって最も広く分布している.9)2.3 SUFマシナリーSUFマシナリーは通常6種類のタンパク質から構成されている.Fe-Sクラスターの材料となる鉄はSufAから,硫黄はSufS/SufEの複合体(SufSE複合体)から提供され165