ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

菅大介ρxy (μΩcm)m orb (μB /Ru)図2(a) n CSTO = 2 (monoclinic SRO)3210-1-2-3-4 -2 0 2 4Field (Tesla)(c) n CSTO = 2 (monoclinic SRO)0.220-0.2m spinm orbat 10K-50 0 50Field angleθΗ(degree)10mspin (μB /Ru)m spinm orbSRO/CSTO/GSOヘテロ構造のホール抵抗率ρxyの磁場依存性(上段)と軌道およびスピン磁気モーメントの磁場印加角度依存性(下段)(a)と(c)および(b)と(d)はそれぞれn CSTO=2およびn CSTO=3のヘテロ構造における結果である.(Magneticfield dependence ofρxy(upper panels)and field angleθH dependence of m spin and m orb(lower panels)for theSRO/CSTO/GSO heterostructures.)合角度」さらには構造相をも制御できることを意味している.薄膜と基板材料との面内格子定数の差に由来する格子ミスマッチだけでなく,結合角度などを含めた界面構造もヘテロ構造の構造特性を決定する重要な要因であることがわかる.SRO/CSTO/GSOヘテロ構造中のRu-O-Ru結合角度(SRO薄膜層の構造)が物性に与える影響を評価するために,磁気輸送特性を評価した.5)電気抵抗率の温度依存性からは,構造相によらずSRO層は低温まで金属伝導を示し120~130 Kの温度領域で強磁性転移することを確認した.図2aおよび2bに示すのはCSTO層の厚さを2および3モノレーヤとしたヘテロ構造のホール抵抗ρxyの磁場依存性である.図中のρxyからは正常ホール効果の寄与は差し引いている.SRO層の強磁性モーメントに由来する異常ホール効果が観測できるが,その振る舞いはSRO薄膜構造(単斜晶または正方晶)に大きく依存している.SRO層が単斜晶構造を有する場合(CSTO層の厚さが2モノレーヤ以下)には磁場掃引方向に対してヒステリシスがみられるのに対して,正方晶構造の場合(CSTO層の厚さが3モノレーヤ以上)ではρxy-H曲線のヒステリシスは非常に小さく,ほぼ消失していると言える.この結果はSRO薄膜層のθRu-O-Ruに依存して磁気異方性(磁化容易軸方向)が変調されていることを示唆している.単斜晶構造を有するSROの磁気モーメントは,[110]ortho方向(薄膜成長方向)の成分を有するのに対して,正方晶構造のSRO層は面内磁化を有すると理解できる.ρxy (μΩcm)morb (μB/Ru)(b) n CSTO = 3 (tetragonal SRO)3210-1-2-3-4 -2 0 2 4Field (Tesla)(d) n CSTO = 3 (tetragonal SRO)0.220-0.2at 10K-50 0 50Field angleθΗ(degree)10mspin (μB/Ru)SRO薄膜層の磁気異方性(磁化容易軸方向)に関してより詳細な情報を得るために,放射光X線磁気円二色性(MCD)分光を行った.7)MCDスペクトルに対して,総和則を適用することでスピンおよび軌道磁気モーメント(m spinおよびm orb)を定量評価できる.測定はSPring-8のBL25SUにて行い,20 KにてRuのM吸収端でスペクトルを取得した.図2cおよび2dに示すのは,単斜晶構造および正方晶構造を有するSRO層を含んだSRO/CSTO/GSOヘテロ構造のm spinおよびm orbの磁場印加角度依存性である.単斜晶構造SROを含んだヘテロ構造においては,磁場(1.9T)を[100]ortho方向に印加した場合(θH~45°)に,m spinが1.7μB/Ruの最大値を示すことがわかる.つまり,磁化容易軸が[100]ortho方向(単斜晶構造のa軸方向)と平行であることを意味している.また軌道磁気モーメントm orbの符号は負であり,磁化容易軸方向に沿って極大値(-0.1μB/Ru)を有している.つまり,m spinとm orbの反平行配置でのスピン軌道相互作用が単斜晶構造SRO層の磁気異方性を安定化していることがわかる.一方で,正方晶構造SRO層を含んだヘテロ構造の場合には,観測されたm spinおよびm orbともに小さく(m spin~0.8μB/Ruおよびm orb~-0.04μB/Ru),また印加磁場角度によらずほぼ一定である.これは正方晶構造SRO層の磁化容易軸が面内方向に沿っていることを示唆しており,ホール抵抗率の振舞い(図2b)と合致するものである.これらの結果からSRO層の磁気異方性には軌道磁気モーメントが重要な役割を果たしていることがわかる.またSRO層のRu-O-Ru結合角度(もしくはRuO 6酸素八面体回転)と軌道磁気モーメントとが密接に相関していたために,SRO/CSTO界面における局所構造を原子レベルでわずかに変調するだけでSRO層の磁気異方性が制御できたと理解できる.今後,「金属-酸素結合」に着目してヘテロ構造や界面を設計そして構築することで,酸化物の新機能のさらなる発見につながると期待できる.本稿で紹介した研究成果は,島川祐一教授,倉田博基教授,治田充貴助教(京都大学化学研究所),麻生亮太郎氏(現大阪大学助教)および水牧仁一朗氏(高輝度光科学研究センター)との共同研究によって得られたものです.また本研究の一部は科研費,研究拠点形成事業A.先端拠点形成型によって支援されました.この場を借りて深くお礼申し上げます.文献1)D. G. Schlom, et al.: Ann. Rev. Mater. Res. 37, 589(2007).2)H. Y. Hwang, et al.: Nat. Mater. 11, 103(2012).3)M. Bibes, et al.: Adv. Phys. 60, 5(2011).4)R. Aso, et al.: Sci. Rep. 3, 2214(2013).5)D. Kan, et al.: Nat. Mater. 15, 432(2016).6)D. Kan, et al.: Phys. Rev. B 94, 024112(2016).7)D. Kan, et al.: Phys. Rev. B 94, 214420(2016).164日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)