ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No4

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概要

日本結晶学会誌Vol60No4

日本結晶学会誌60,163-164(2018)最近の研究動向局所構造変調による酸化物遍歴強磁性体の磁気異方性制御京都大学化学研究所菅大介Daisuke KAN: Controlling Magnetic Anisotropy of an Itinerant Ferromagnetic Oxidethrough Atomic Level Structural Engineering異なる物質を組み合わせてヘテロ構造化することで,物質機能を決定する化学結合を変調でき,またバルクとは異なる構造相を安定化できることが知られている.そのためヘテロ構造化は,物質機能の開発に有用な手段と言える.実際,遷移金属酸化物をヘテロ構造化することで,物理的にも化学的にも興味深い現象が数多く見出されている.1)-4)これらの機能特性の起源となるのはヘテロ構造中の「金属-酸素結合」であると考えられている.しかしながらヘテロ構造化によって酸化物中の「金属-酸素結合」がどのように変調されるかは,実はよくわかっていない.なぜなら,「金属-酸素結合」の可視化には,比較的容易に取得できる金属原子の情報だけでなく,実験的に観測の難しい酸素原子に関しても原子位置や変位などの情報が必要になるためである.一方で,軽元素可視化技術は近年急速に進歩を遂げており,ヘテロ界面のような局所領域に位置する軽元素(例えば酸素原子)の観察も可能になっている.我々の研究グループでは,走査型透過電子顕微鏡の環状明視野法(ABF-STEM)や放射光X線を用いたCrystal Truncation Rod(CTR)散乱法が,酸化物ヘテロ構造中の酸素原子,さらには「金属-酸素結合」の可視化に有用であることを示してきた.4)-7)本稿では,局所界面構造を変調するだけでヘテロ構造全体における「金属-酸素結合角度」ひいては構造相を制御できることを示す.さらにペロブスカイト構造を有する酸化物遍歴強磁性体SrRuO 3(SRO)を含んだヘテロ構造に対して,この構造制御技術を適用することでSROの磁気異方性をも制御できることを紹介する.図1に示すのは,ABF-STEM断面観察で酸素原子を直接観察することで決定したSRO/(Ca 0.5Sr 0.5)TiO 3/GdScO 3(SRO/CSTO/GSO)ヘテロ構造中のB-O-B(B=Sc,Ti,Ru)5結合角度の空間依存性)である.ヘテロ構造試料は,パルスレーザー堆積法で,(110)ortho GSO基板上にSRO(膜厚10 nm)およびCSTO(1から4モノレーヤ厚さ)をエピタキシャル成長させることで作製した.実験室系X線回折装置を利用した構造評価からは,CSTO層の厚さに依らず,どのヘテロ構造も格子整合を維持しており面内の格子定数はGSO基板のそれと一致していることを確認日本結晶学会誌第60巻第4号(2018)している.一方で,図1に示すように,SRO層中のRu-O-Ru結合角度θRu-O-Ruは層内ではほぼ一定であるが,その大きさはCSTO層の厚さが1から4モノレーヤへと増加するに従って168°から178°へと変化している.放射光6CTR散乱測定を含めた詳細な構造解析)から,θRu-O-Ruの変化は[001]ortho方向に沿ったRuO 6酸素八面体回転角度の変化に由来するものであり,CSTO層の厚さが2モノレーヤ以下の場合にはSRO層はRuO 6回転を有する単斜晶構造を有するのに対して,3モノレーヤ以上ではRuO 6八面体回転がほぼ消失した正方晶構造を有していることが判明している.特筆すべきは,θRu-O-RuはSRO/CSTO界面における結合角度θRu-O?Ti(図1中の青矢印)と相関していることである.θRu-O?TiはSRO/CSTO界面におけるRuO 6とTiO 6酸素八面体の連結角度に相当することを考慮すると,図1に示す結果は,ヘテロ界面における局所構造(酸素八面体の連結角度)を原子層単位で変調するだけで,格子整合したヘテロ構造の「金属-酸素結Atomic rows(a) n CSTO = 1(b) n CSTO = 2(c) n CSTO = 3(d) n CSTO = 4(e) n CSTO = 1 (f) n CSTO = 2 (g) n CSTO = 3 (e) n CSTO = 425201510501nm 1nm 1nm 1nmθB-O-B160 180 160 180 160 180 160 180Bond angleθB-O-B (degree)図1(a)~(d)SRO/CSTO/GSOヘテロ構造の断面ABF-STEM像.(e)~(d)B-O-B(B=Sc,Ti,Ru)結合角度の空間依存性.n CSTOはヘテロ構造中のCSTO層の厚さを示す.((a)~(d)Cross-sectional ABF-STEM images for SRO/CSTO/GSO heterostructures.(e)~(d)Spatial dependence of B-O-B bond anglesfor the heterostructures.)編集部注:カラーの図は電子版を参照下さい.bulk SROSRO CSTO GSOSRO CSTO GSO163