ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

光を照射するとホウセンカの実のように内容物を放出する中空結晶図2(a)ジアリールエテン1oの結晶構造と(b)光異性化で生成する閉環体との分子サイズの比較.((a)Crystalline structure of diarylethene 1o,(b)Comparison of width and height of open- and closedringisomers of 1 and 2.)角形の空洞をもつ結晶の形状からIwanagaモデルと呼ばれるものであると考えられた. 6)ちなみに,誘導体2oを同条件で昇華しても中空結晶はまったく得られなかった.この中空結晶の構造をSPring-8(BL40XU)にて解析した.中空結晶の構造は,前述した穴のない結晶の構造と同じであった.紫外光をわずか72秒照射するとa,b軸がそれぞれ2.45,0.56%伸び,c軸が1.10%縮むことが確認された.したがって,中空結晶に紫外光を照射すると図3cに示すように結晶の長軸と厚さ方向に伸長し,幅が収縮すると予想される.ガラス基板に成長したままの状態の中空結晶の,最も広い(010)面から紫外光(313 nm)を照射すると,a軸の伸長に伴い結晶は光源から遠ざかるように屈曲するとともに,ひび割れが観察された.ひび割れは空孔サイズの大きな,ガラス基板面から遠い結晶の開口側で多くみられ,a軸の伸びに応じてa軸と直角方向に入っている.中空結晶を基板から外し,水に分散している状態で販売されている直径1μmの蛍光ビーズを,結晶中央部の空洞に毛管現象によって詰め(図3d),乾燥後,紫外光を照射すると,結晶は赤紫色へと変色するとともに破裂し,内日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)図3(a)昇華生成したジアリールエテン1oの中空結晶,(b)中空構造を真上から見たSEM画像,(c)中空結晶における単位格子軸の方向と紫外光照射による結晶の歪み,(d)中央の空孔に蛍光ビーズを入れて,(e)紫外光を照射するとビーズを吐き出す結晶システム.((a)A hollow crystal of 1o preparedby sublimation under normal pressure,(b)A SEMimage of a hollow crystal from top view,(c)Theillustration of the distortion of the hollow structureupon UV irradiation,(d)A hollow crystal filled withfluorescent beads,(e)Scattering of beads upon UVirradiation.)包したビーズも結晶が四散するのに匹敵する速度で飛び散る様子が観察された(図3e).結晶をホウセンカの実に例えると内包した蛍光ビーズがホウセンカの種であり,紫外光照射に伴ってホウセンカの種飛ばしのような現象が誘起されることになる.これは,フォトサリエント現象に光刺激で内包物を発散させる新たな機能を付加したものと言える.5)今後,分子構造と結晶形の関係を明らかにし,望む結晶,望む機能を発現する分子を設計できるようになることが望まれる.謝辞本研究を行うに際し結晶構造解析に尽力していただいた,立教大学の森本正和教授,SPring-8の安田伸広先生,東京工業大学の関根あき子先生に感謝する.・中空結晶から内包したビーズが飛び散る様子を撮影した動画ファイルは結晶学会誌オンライン版に付録として掲載している.文献1)M. Irie, et al.: Chem. Rev. 114, 12174(2014).2)M. Irie, et al.: Nature 446, 778(2007).3)P. Naumov, et al.: Chem. Rev. 115, 12440(2015).4)K. Uchida, et al.: Chem. Eur. J. 22, 12680(2016).5)K. Uchida, et al.: Angew. Chem. Int. Ed. 56, 12576(2017).6)H. Iwanaga, et al.: J. Cryst. Growth 51, 438(1981).71