ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

クリスタリットDNAナノテクノロジーDNA Nanotechnology生命の遺伝情報の保存に用いられているDNAを分子材料として扱い,ナノスケールの構造体やデバイスを設計・作製する技術である.DNAには塩基対相補性(AはTと,GはCと,それぞれ塩基対を形成しやすい性質)があるため,DNAの塩基配列をプログラミングすることでその立体構造形成や自己組織化を制御することができる.DNAオリガミのような二次元の構造体や,DNAキューブのような三次元の構造体,さらには刺激に応じて動くDNAナノロボットなどが開発されている.DNAは化学的に安定で生体適合性に優れているうえに環境負荷も低いため,ナノサイズの基板はもちろん,ドラッグデリバリー技術などへの応用も期待されている.(上智大学理工学部物質生命理工学科近藤次郎)ナノワイヤーNanowire直径がナノメートルオーダーのワイヤー状の物質.似た名前と形状のものとしてナノファイバーがあるが,ISO(国際標準化機構)によれば,導電性または半導電性をもつナノファイバーを特にナノワイヤーと定義している.高い導電性,透明性,柔軟性をもつナノワイヤーは,タッチパネルなどの透明導電性フィルムなどに応用されている.(上智大学理工学部物質生命理工学科近藤次郎)B型DNAらせんB-Form DNA HelixDNAはA型,B型およびZ型の二重らせん構造を形成することができるが,主にB型を形成している.1953年にワトソンとクリックが提唱した右巻きのDNAの二重らせん構造はB型である.らせん構造では,親水性のリン酸基はらせんの外側を向いているが,塩基対はらせんの内側を向いている.また,B型の二重らせんでは,ヌクレオチドのグリコシド結合はすべてanti形となっており,パッカリングについてはC2’-endo形となっている.らせん1巻きのピッチは33.2 Aであり,その1巻きに含まれる塩基対の数は約10である.二重らせん構造には,大きな溝と小さな溝があり,それぞれ主溝と副溝と呼ばれる.B型らせんは,主溝が広くて浅いのが特徴である.塩基配列特異的なDNA結合タンパク質は,主溝に結合して塩基を認識していることが知られている.(千葉工業大学先進工学部坂本泰一)Native SAD法Native SAD PhasingNative SAD法は,低エネルギーのX線(波長1.9 Aや2.7 Aなど)を用いると,タンパク質や核酸の構成原子である硫黄やリンが微弱な異常散乱シグナルを生じることを利用した位相決定の手法である.タンパク質分子に含まれる硫黄原子の異常散乱シグナルを利用することから,Sulfur SAD法とも呼ばれる.新規構造の位相決定のために必須であったSe-Met誘導体サンプルの精製や結晶化,もしくはソーキング法による重原子誘導体結晶の調製を必要とせず,native結晶そのものを用いて位相決定できる点が特徴である.(高エネルギー加速器研究機構千田美紀)MR-native SAD法MR-native SAD Phasing分子置換法(MR)とnative SAD法を組み合わせた方法である.この手法では,分子置換法で部分構造の解しか得られない場合であっても,部分構造の初期位相から異常散乱差フーリエマップを計算することができる.そのため,native SAD法と比較して硫黄の位置の決定が非常に容易である.さらに,実験的に決定された位相を用いて計算された電子密度マップは,分子置換法で得られるモデルバイアスのかかった電子密度マップと比較して明瞭で解釈しやすいため,自動でのモデル構築や迅速な構造決定に適した手法と言える.(高エネルギー加速器研究機構千田美紀)Winged Helix-turn-helixモチーフWinged Helix-turn-helix MotifWinged-Helix-turn-helix(wHTH)は,転写因子のDNA結合ドメインに特徴的なHelix-turn-helix(HTH)モチーフのサブタイプであり,ウィング領域をもつ.典型的な例としては,3つのαヘリックス(α1,α2,α3)と3つのβシート(β1,β2,β3)が,α1-β1-α2-α3-β2-β3の順で配列するものなどが挙げられるが,そのトポロジーは多岐にわたる.αヘリックスの領域がDNAの主溝に位置する塩基と選択的な相互作用をすることが多いのに対して,ウィング領域はDNAの副溝の糖-リン酸骨格と非選択的な相互作用することが多い.(高エネルギー加速器研究機構千田美紀)148日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)