ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

クリスタリット階層的クラスタリングHierarchical Clustering Analysis多数のデータを類似度に基づき分類する統計学の手法の1つ.最もよく似た(距離の近い)データを結合し,これを順番に繰り返すことで,階層的にグループを形成する.それゆえ,分けるべきグループの数が決まっていなくても適用可能である.実行するにはデータ間とクラスタ間の非類似度(距離)の計算方法を定義する必要がある.データ間距離にはユークリッド距離がよく使われるが,距離の公理を満たしていれば任意である.クラスタ間の距離を決める方法はいくつかあるが,両クラスタに属する全データ間距離の平均を取る群平均法や,クラスタ内の分散が最小になるように結合していくWard法がよく用いられる.結晶構造解析では,例えば多数の結晶に由来する個別回折データを結合する最適な組み合わせを探索する方法に応用されている.(国立研究開発法人理化学研究所山下恵太郎)定量分析法Quantitative Phase Analysis定量分析(quantitative analysis)という言葉は,相互の量的な関係を明らかにするという意味で,広い分野で使用されている.結晶学の分野では,一般に混合物における,場合によっては非晶質相を含む,結晶相各相の重量分率を求めることを意味し,quantitative phase analysis(QPA)と記すことが多い.原理的には,観測強度を単位重量当たりの回折強度で除すことにより,各成分の相対重量比が求まる.そのためには,回折強度が被照射体積(したがってその重量)および構成原子の種類と配列(構造因子)に依存することを考慮する必要がある.広く使われている方法として,混合した内部標準物質の回折線強度を基準にして検量線から重量比を求める内部標準法,一定の重量比で混合した標準物質と分析対象となる成分物質の回折線強度比(Reference Intensity Ratio=RIR)をデータベース化し,そのRIR値を基準にするRIR法,基準となる計算粉末回折パターンにスケール因子を乗じ,精密化されたその値から重量分率を求めるリートベルト定量などがある.(㈱リガク虎谷秀穂)DD法Direct-Derivation MethodDirect-Derivation法の略称で,X線粉末回折法を用いた新しい定量分析法の1つ.ほかの方法と同様に測定した回折強度を観測値として用いる.従来法では,観測強度から各結晶相の重量分率を導くにあたって標準物質との回折線強度比,あるいは強度計算に用いられる結晶構造モデルなどが必要とされる.DD法は個々の結晶相の化学式量および化学式に含まれる個々の原子がもつ電子の個数のみ,すなわち化学情報のみから定量分析を実施できる.この方法は化学式量当たりの全散乱強度が個々の電子の数の二乗の和から求められることを用いている.その結果,成分ごとに回折線強度の総和が求まれば,それを化学式量当たりの散乱強度で除することによって各成分の重量分率が求まる.散乱強度の総和は,ある角度範囲における積分強度の和,プロファイル強度の積分などによって求められ,よって構造既知,構造未知,結晶性が高い,あるいは結晶性が低くて回折パターンを分解できない場合でも定量分析を実施できる.(㈱リガク虎谷秀穂)パターソン関数Patterson Functionパターソン関数P(t)は電子密度分布関数ρ(r)のselfconvolutionとして定義され,数学的にはP(t)=∫1 0ρ(r)ρ(r+t)drと表される.例えば単位胞の中にn Aおよびn B個の電子をもつAとBの原子があるとする.ρ(r)はAとBの原子位置を中心に2つのピークをもち,両ピーク部分の積分値はそれぞれn Aおよびn Bとなる.一方,P(t)は,convolutionにおける被積分量ρ(r)ρ(r+t)からわかるように,tがA-B間の原子間ベクトルrA-Bに等しい,すなわち,t=±rA-Bのとき,両原子が重なったピークをもち,そのピークの積分値はn An Bとなる.あるいはt=0のとき,被積分量は自分自身の積となり,t=0(原点)に積分値n 2 A+n 2 Bのピークをもつ.P(t)もρ(r)も同じ格子軸長を周期とするフーリエ級数で表される.ρ(r)のフーリエ係数は構造因子で,ρ(r)の計算には構造因子の絶対値と位相情報が必要となる.一方,P(t)の係数は構造因子の絶対値の二乗で,その計算には位相情報が不要である.P(t)はρ(r)の構造を反映し,位相情報なしで原子間ベクトルの情報が得られることから,現在はほとんど使われていないが,結晶構造決定に使用されてきた.(㈱リガク虎谷秀穂)日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)147