ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

クリスタリット結晶は状態(相)の名称であるが,柔粘性結晶相をもつ結晶性の化合物自体を柔粘性結晶と呼ぶことも多い.また,塑性変形を示す分子性結晶を,結晶構造や融解エントロピーの大きさとは関係なく柔粘性結晶と称する場合もある.(北海道大学大学院理学研究院原田潤)微小結晶構造解析Micro-crystallographyペンデル縞干渉法Pendellosung Fringe Method動力学回折理論のラウエケースでは透過波どうし,もしくは回折波どうしが干渉しあう.このとき波数ベクトルの大きさがわずかに異なっているため音波のうなりに似た現象が起きる.このうなりが結晶中を進む様子をペンデルビートと呼び,これによって生じる干渉縞をペンデル縞と呼ぶ.この縞の周期は構造因子の絶対値の逆数に比例するため,周期から構造因子の絶対値を高い精度で求められる.(筑波大学数理物質系西堀英治)コンポジットオミットマップComposite Omit Mapタンパク質構造解析でモデルバイアスを減らしたモデル構築を行う際に使用される手法.部分的に構造モデルを取りのぞいた(オミットした)モデルを利用し,位相を計算して電子密度を求めることを繰り返す.モデルがない部分の位相の寄与が入らずモデルバイアスを低減したモデル構築がしやすくなると言われている.(筑波大学数理物質系西堀英治)柔粘性結晶Plastic Crystal球形や正四面体に近い分子構造をもつ一群の化合物は,加圧により伸展性を示す柔粘性結晶となる.柔粘性結晶は液体と固体の中間状態(中間相)であり,分子配向は液体のように高度に乱れているが,分子の重心は三次元的な周期性を保っている.分子配向に関して液体のような高い自由度をもつため,融解エントロピーは小さく(通常20 J K -1 mol -1以下),また,同じ分子量をもつ化合物に比べて融点は高い.そのほとんどが,面心立方格子,体心立方格子など立方晶系の結晶構造をもつ.冷却により,大きなエントロピー変化を伴う相転移を経て,分子配向が秩序化し,低対称の結晶格子となる.柔粘性タンパク質結晶構造解析において,数~数十ミクロン程度の小さなサイズの結晶を用いて解析すること.マイクロメートルサイズにまで集光されたX線ビームが利用できるようになったことで,微小結晶からでも高いS/N比での回折データ収集が可能になった.微小結晶は体積が小さく,十分な回折強度シグナルを得るには入射X線の光子密度を大きくする必要があり,その結果放射線による損傷が激しくなりやすい.それゆえ,微小結晶構造解析では多数の結晶を用いるのが普通である.XFELにおけるSFXでは,数千~数万ものX線静止写真を個別の結晶から収集し,構造解析を行う.従来のシンクロトロン放射光施設でも同様に1結晶1イメージの測定(SSX)や,1結晶から10°程度のみの振動写真を収集するsmallwedgeデータ収集が利用されている.多数の結晶から効率的にデータを収集するための装置・ソフトウェア開発が盛んに行われている.(国立研究開発法人理化学研究所山下恵太郎)Small-wedgeデータ収集Small-wedge Data Collection振動写真法によるX線回折データ収集において,1つの結晶から5~10°程度の微小角度範囲のみの回折データを収集して複数の結晶から完全なデータセットを構築する測定法.微小結晶を用いる場合に有用である.1結晶当たりの測定を微小角度範囲に限定することで,放射線損傷を抑えつつ,高分解能の回折X線を観測することが期待できる.結晶1つからは完全かつ冗長なデータは得られないので,複数の結晶からデータを収集し,それらを結合して構造解析に用いる.Small-wedgeデータ収集は1結晶1イメージのみ収集するシリアル結晶学と通常のデータ収集との中間的存在であり,シリアル結晶学と比較して積分反射強度を実験的に測定できる利点がある.多数の結晶を試料ホルダに収めると効率よくsmall-wedgeデータが収集できるが,このとき結晶方位に大きな偏りができないように注意する.データを結合する際は,同型なものだけを選択する必要がある.(国立研究開発法人理化学研究所山下恵太郎)146日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)