ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

オートタキシン-DNAアプタマー複合体の結晶構造解析と肺線維症治療薬への応用マーについては,筆者の知る限りこれまでに知られていなかった.オートタキシンとRB011複合体の結晶構造から,RB011はオートタキシンの基質結合部位を完全には塞いではおらず,コリン結合部位を占有することによって,低分子阻害剤とは異なる機構でオートタキシンの活性を阻害することが明らかとなった.さらに構造情報を基に改良を加えたRB012,および,RB014ではコリン結合部位と疎水性ポケットの両方を塞ぐことによって,強力なオートタキシンの阻害を実現していると考えられた.文献図5 RB011によるオートタキシンの阻害機構.(Inhibitionmechanism of autotaxin by RB011.)リゾフォスファチジン酸(PDB 3NKN)(A),RB011(B),HA155(PDB 2XRG)(C),および,3BoA(PDB 3WAX)(D)とオートタキシンの複合体の複合体の結晶構造.示唆された.抗体医薬に比べた核酸アプタマーの利点の1つに修飾基や官能基を化学合成によって容易に導入することができることが挙げられる.そこでRB011に化学修飾を導入して,疎水性ポケットも塞ぐことができれば,リゾホスファチジルコリンに対する阻害活性を向上させることができるのではないかという仮説を立てた.RB011のC12とC13の間のリン酸基に嵩高いメチル基を導入して,RB012を作製した.RB012は,オートタキシンのリゾホスファチジルコリン加水分解活性をIC501.8 nMとRB011よりも強く阻害したことから,導入したメチル基がさらなる阻害活性の向上に働いていることが示唆された.生体内での安定性をさらに向上させるため,RB012のリン酸基に複数のメチル基を導入しRB014を作製した.ブレオマイシン処理をして肺線維症を誘導したモデルマウスに対して,RB014を鼻腔内投与したところ,肺胞洗浄液内のオートタキシン阻害に伴うリゾホスファチジン酸濃度の低下が認められた.さらに肺線維症のマーカーとなる肺胞洗浄液内のコラーゲン量を測定したところ,線維症モデルマウスに比べて顕著な低下が認められた.これらのことからRB014はin vivoにおいてもオートタキシンの活性を効率的に阻害し,肺線維症モデルマウスに対して薬効を示すことが明らかとなった.6.おわりに抗VEGFアプタマーや抗CCL2アプタマーのような核酸アプタマーはターゲットタンパク質のタンパク質相互作用を阻害することでその薬効を発揮する.その一方で酵素をターゲットとして特異的に阻害する核酸アプタ日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)1)M. Umezu-Goto, et al.: J. Cell Biol. 158, 227(2002).2)A. Tokumura, et al.: J. Biol. Chem. 277, 39436(2002).3)K. Noguchi, D. Herr, T. Mutoh and J. Chun: Curr. Opin. Pharmacol.9, 15(2009).4)W. H. Moolenaar, L. A. van Meeteren and B. N. Giepmans: Bioessays26, 870(2004).5)Z. Pamuklar, et al.: J. Biol. Chem. 284, 7385(2009).6)H. Kanda, et al.: Nat. Immunol. 9, 415(2008).7)J. J. Contos, N. Fukushima, J. A. Weiner, D. Kaushal and J. Chun:Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 13384(2000).8)M. Tanaka, et al.: J. Biol. Chem. 281, 25822(2006).9)L. A. van Meeteren, et al.: Mol. Cell. Biol. 26, 5015(2006).10)M. Inoue, et al.: Nat. Med. 10, 712(2004).11)S. Y. Yang, et al.: Clin. Exp. Metastasis 19, 603(2002).12)Y. Kishi, et al.: J. Biol. Chem. 281, 17492(2006).13)A. M. Tager, et al.: Nat. Med. 14, 45(2008).14)N. Oikonomou, et al.: Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 47, 566(2012).15)A. D. Keefe, S. Pai and A. Ellington: Nat. Rev. Drug Discov. 9, 537(2010).16)E. W. Ng, et al.: Nat. Rev. Drug Discov. 5, 123(2006).17)K. Kato, et al.: Acta Crystallogr. Sect. F Struct. Biol. Cryst.Commun. 68, 778(2012).18)H. Nishimasu, et al.: Nat. Struct. Mol. Biol. 18, 205(2011).プロフィール加藤一希Kazuki KATOハーバード大学医学大学院ボストン小児病院Program in Cellular & Molecular Medicine, Department of BiologicalChemistry & Molecular Pharmacology, Harvard Medical School, BostonChildren HospitalCenter for Life Science Building, 3 Blackfan Circle, Boston, MA 02215e-mail: kato12353@gmail.com最終学歴:東京大学大学院理学研究科博士課程(2015年修了)専門分野:細胞内外における分子認識現在の研究テーマ:免疫系における異物認識とシグナル伝達の構造基盤趣味:温泉巡り,ウィスキー濡木理Osamu NUREKI東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻Department of Biological Sciences, Graduate Schoolof Science, The University of Tokyo7-3-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-0033, Japane-mail: nureki@bs.s.u-tokyo.ac.jp145