ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

加藤一希,濡木理図3RB011の構造.(Structure of RB011.)(A)RB011の模式図.(B)RB011の結晶構造,および,コーナージャンクションの拡大図.図4RB011によるオートタキシンの認識.(RecognitionofautotaxinbyRB011.)(A)オートタキシンとRB011相互作用の拡大図.(B)コーナージャンクションと亜鉛イオンの相互作用.(C)コーナージャンクションと触媒ドメインの相互作用.オンが必要であったこととあわせて,二価金属イオンはRB011のL字型構造へのフォールディングを助ける働きを担っていることが示唆された.さらにRB011の変異体解析によってカルシウムイオンを配位する塩基やベースカルテット構造を形成する塩基に変異を導入したアプタマーは,オートタキシンに対する阻害活性を消失した.以上のことから結晶構造中で観察されたRB011のL字型の構造はオートタキシンの加水分解活性を阻害するのに重要であることが明らかとなった.4.2 DNAアプタマーによるオートタキシンの認識RB011はコーナージャンクション,および,ステムループを介して多数の水素結合と疎水性相互作用を形成し,広い範囲にわたってオートタキシンの触媒ドメインを認識していた(図4).コーナージャンクションのリン酸基骨格はオートタキシンの触媒ドメイン上に形成された溝に深く入り込み(図4A),特にA11とC12の間に位置するリン酸基が水分子を介した水素結合によって活性中心の亜鉛イオンに配位していた(図4B).またLys467はmC7,C28,および,T29と塩基特異的に水素結合を形成しており,さらにPhe469はT27,および,C28と芳香環構造によるスタッキング相互作用を形成していた(図4C).これらのアミノ酸に点変異を導入したオートタキシン変異体はRB011に結合できず,またRB011存在化においてリゾホスファチジルコリンに対する加水分解活性を阻害されなかった.RB011との相互作用にかかわるオートタキシンのアミノ酸残基は,オートタキシンの生物種間では高度に保存されているが,ENPPファミリー間では保存されていない.これらのことからRB011はヒト,および,マウスに由来するオートタキシンの両方を認識できるが,ほかのENPPファミリー酵素は認識できない,ゆえにオートタキシン選択的に活性を阻害することが明らかとなった.5.構造に基づいた抗オートタキシンアプタマーの改良以前決定されたオートタキシンとのリゾホスファチジン酸の複合体の結晶構造中では,リゾホスファチジン酸のアシル基はオートタキシンの疎水性ポケットに収容され,リン酸基は活性部位に結合した2つの亜鉛イオンによって認識されていた(図5A). 18)オートタキシンとRB011複合体の結晶構造中では,コーナージャンクションのリン酸基骨格がオートタキシンのリゾホスファチジルコリンのコリン骨格が結合する部位の近傍に結合していた(図5B).一方でHA-155や3BoAなどの既存の低分子阻害剤は疎水性ポケットと亜鉛イオンに結合することによって,オートタキシンの活性を阻害していた(図5C,D).これらのことからRB011はオートタキシンの基質であるリゾホスファチジルコリンのコリン結合部位に競合的に結合することによって,低分子阻害剤とは異なる機構でオートタキシンの活性を阻害することが144日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)