ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

オートタキシン-DNAアプタマー複合体の結晶構造解析と肺線維症治療薬への応用び4.6 nMの強さで阻害した.また,RB011はヒトの血清中においても,血漿中に存在するオートタキシンによるリゾホスファチジン酸の産生を効率良く阻害した.オートタキシンに対する既存の低分子阻害剤であるPF8380,HA-155,3BoAと比較したところ,RB011はin vitroにおいてオートタキシンのリゾホスファチジルコリンに対する加水分解活性を最も強く阻害した.さらに,オートタキシンは別名ENPP2としてENPP1~ENPP7からなるENPPファミリーに属するが,RB011はほかのENPPファミリーの加水分解活性を阻害しなかった.これらのことから,RB011はオートタキシンに対し選択的,かつ,きわめて強力な阻害剤であることが明らかにされた.3.オートタキシン-DNAアプタマー複合体の調製と結晶化そこでRB011によるオートタキシン選択的な活性阻害機構を解明するためにRB011とマウスに由来するオートタキシンの結晶化を試みた.オートタキシンは約800アミノ酸残基からなる細胞外タンパク質酵素であり,アスパラギン結合型糖鎖修飾を受ける.不均一に修飾された糖鎖はしばしば結晶化の妨げになることから,GnT1と呼ばれる糖転移酵素を欠損したHEK293S細胞を用いて,高マンノース型の均一な糖鎖修飾を受けたオートタキシンを分泌発現させた.オートタキシンのカルボキシル末端にはTARGETタグと呼ばれるYPGQアミノ酸の繰り返し配列からなるペプチドタグが付与されており,TARGETタグを特異的に認識するP20.1抗体カラムを用いることで培養上清からオートタキシンを精製した. 17)抗オートタキシンDNAアプタマーであるRB011について,95℃で熱変性をさせたのちに室冷することでリフォールディングを行った.精製したオートタキシンに対して過剰量(モル比で1.2倍量)のRB011を混合したのち,ゲルろ過クロマトグラフィーを行い,オートタキシン-RB011複合体の単離を行った.この際,マグネシウムのような二価金属イオンをゲルろ過バッファー中に入れておかなければRB011がオートタキシンと解離してしまうことから,RB011によるオートタキシンの認識には二価金属イオンが関与することが示唆された.単離したオートタキシン-RB011複合体に対して,市販の結晶化スクリーニングキットを用いてシッティングドロップ蒸気拡散法によって結晶化スクリーニングを行い,沈殿剤としてPEG3,350,PEG4,000,PEG6,000を含む複数の条件で,板状の結晶が得られた(図1A).その後,AdditiveScreen(Hampton社)やハンギングドロップ蒸気拡散法といった結晶化条件の最適化を行い,図に示すような結晶を得た(図1B).最終的にオートタキシン-RB011複合体の結晶構造を2.0 A分解能で決定した.4.オートタキシン-DNAアプタマー複合体の結晶構造4.1全体構造以前報告されたように,オートタキシンは2つのソマトメジンB様ドメイン,活性部位の存在する触媒ドメイン,および,ヌクレアーゼ様ドメインから構成されていた(図2). 18)RB011は2つの2本鎖ステム構造(末端ステムとステムループ),および,ステム構造を連結するコーナージャンクションからなるL字型のヘアピン構造をとり,オートタキシンの触媒ドメインに結合していた(図3A,B).コーナージャンクションは,3つの塩基対によって形成されるベーストリプル構造,および,4つの塩基対によって形成されるベースカルテット構造を有しており,これらの構造がコーナージャンクションの構造を歪ませてL字型の構造をとることに寄与していることが明らかとなった.さらにこのL字型構造は,コーナージャンクションに結合したカルシウムイオンによって安定化されていた.RB011のオートタキシンへの結合におけるカルシウムイオンの重要性を確かめるために,RB011とオートタキシンの結合親和性を表面プラズモン法によって測定したところ,RB011はカルシウムイオンを含まないバッファー中で,オートタキシンに対する結合を著しく低下させた.RB011-オートタキシン複合体の調製の際のゲルろ過バッファー中にマグネシウムイ図1オートタキシン-RB011複合体の結晶.(Crystals ofautotaxin-RB011 complex.)(A)結晶化スクリーニングによって得られた結晶.(B)最適化によって得られた結晶.図2オートタキシン-RB011複合体の全体構造.(Overallstructure of autotaxin-RB011 complex.)日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)143