ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

日本結晶学会誌60,142-145(2018)ミニ特集核酸構造研究の新展開オートタキシン-DNAアプタマー複合体の結晶構造解析と肺線維症治療薬への応用ハーバード大学医学大学院ボストン小児病院加藤一希東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻濡木理Kazuki KATO and Osamu NUREKI: Crystal Structure of Autotaxin Complexed withInhibitory DNA Aptamer and Development of Treatment for Lung FibrosisAutotaxin is a plasma lysophospholipase D that hydrolyzes lysophosphatidylcholine to producelysophosphatidic acid, and attractive target for treatment of Lung fibrosis. We developed antiautotaxinDNA aptamers that inhibit autotaxin with high specificity and efficacy. We determined thecrystal structure of autotaxin complexed with the anti-autotaxin aptamer RB011, and revealed thestructural basis for the specific inhibition of autotaxin by the anti-autotaxin aptamer. We optimizedRB011 based on the structural information to further improve its in vivo efficacy.1.はじめにオートタキシンは血漿に存在するホスホリパーゼDであり,血液中のリゾホスファチジルコリンを加水分解してリゾホスファチジン酸を産生する.1),2)リゾホスファチジン酸はGタンパク質共役受容体であるリゾホスファチジン酸受容体(LPA 1~LPA 6)を活性化して,遊走,生存,浸潤などさまざまな細胞応答を引き起こす.3),4)オートタキシンによるリゾホスファチジン酸の産生は止血やリンパ球の遊走などのさまざまな生理機能に関与し,また脳や血管の発生にも必須である.5)-9)オートタキシンの発現亢進は乳がんやグリオブラストーマのような悪性腫瘍の形成,神経障害性疼痛や糖尿病といった疾患にも関与することが知られている. 10)-12)さらに,最近のLPA 1ノックアウトマウスを用いた研究から,オートタキシンにより産生されたリゾホスファチジン酸が線維芽細胞に発現するリゾホスファチジン酸受容体LPA 1を活性化することにより細胞の遊走を促進し,肺線維症をひき起こすことが明らかにされた. 13)とくに特発性肺線維症は呼吸器系に支障をきたす重篤な疾患であり,患者においてオートタキシンの発現が亢進していることが報告されている. 14)そのためオートタキシンを標的とした阻害剤の開発が進んでいる.DNAやRNAはその塩基配列に基づいて多様なかたちをとることができる.核酸アプタマーはこの“造形力”を利用して標的分子に高い親和性および特異性で結合する.核酸アプタマーはランダムな配列のオリゴヌクレオチドから構成されるライブラリーからSELEX法によりスクリーニングすることができる.核酸アプタマーは多様な標的分子と結合できる性質にくわえ,免疫原性が低い,溶解度が高い,化学修飾が容易であるといった性質をもつことから医薬品への応用が進められており,実際に抗VEGFアプタマーであるPegaptanib(商品名Macugen)は加齢黄斑変性の治療剤として承認されている. 15),16)筆者らはリボミック社との共同研究によってオートタキシンを特異的に阻害するDNAアプタマーを取得した.取得したアプタマーとオートタキシンの複合体の結晶構造を決定し,構造に基づいて抗オートタキシンアプタマーの改良を行った.本稿ではDNAアプタマーとオートタキシン複合体の結晶化から構造決定の過程について詳述するとともに,いかにして核酸アプタマーがオートタキシンを特異的に認識して,その酵素反応を阻害しているか紹介する.2.抗オートタキシンDNAアプタマーの開発SELEX法を用いてオリゴヌクレオチドライブラリーからオートタキシンと結合する複数のDNAアプタマーを取得した.これらのアプタマーの中で,オートタキシンの加水分解活性を50%阻害濃度10 nMの強さで最も強く阻害したRB002をリードアプタマーとして最適化を行った.オートタキシンの阻害活性に不必要な塩基の除去,in vivoにおける安定性向上のための化学修飾を複数導入して,RB011を作製した.このRB011はヒト,および,マウスに由来するオートタキシンに対して,K D=1.6 nM,および,1.3 nMの親和性でそれぞれ強く結合し,さらにin vitroにおいてヒト,および,マウスに由来するオートタキシンのリゾホスファチジルコリンに対する加水分解活性を,それぞれ,50%阻害濃度4.4 nMおよ142日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)