ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

千田美紀,安達成彦,千田俊哉,Maharani Pertiwi Koentjoro,小川直人図5CbnRのDNA結合ドメインと認識配列DNAとの複合体の結晶構造.(Crystal structure of the CbnR_DBD?RBS complex.)(PDB ID:5XXP)(a)Chain A(グレー)とChain B(黒)から構成されるCbnRのDNA結合ドメインとDNA(RBS配列)との複合体の結晶構造.(b)RBS複合体(黒)とDNAフリー(グレー)の構造の比較.3.4 CbnRのDNA結合ドメインとRBS配列との複合体の結晶構造CbnRのDNA結合ドメインはDNA結合タンパク質に特徴的なwinged helix-turn-helix(wHTH)モチーフをもつ.CbnR_DBD?RBS複合体の結晶構造解析の結果,この領域がDNAの主溝に結合していることが確認できた14)(図5a).DNAが結合していない構造との比較を行うために,以前に構造決定したCbnR四量体からDNA結合ドメインを抜き出して比較を行った結果,DNAの結合により,winged-helix-turn-helixのwinged領域に有意な構造変化が生じていた(図5b).4.プロモーターの塩基配列の選択性についての考察4.1 CbnR_DBD?cbnA RBS複合体とBenM_DBD?benARBS複合体との全体構造の比較土壌細菌Acinetobacter baylyi ADP1株の安息香酸分解遺伝子群のLTTRとして知られているBenMのDNA結合ドメイン(BenM_DBD)とbenAプロモーターのRBSとの複合体(BenM_DBD?RBS複合体)の結晶構造が報告されている.15)そこで,CbnRがcbnAプロモーターの塩基配列を特異的に認識する仕組みを探るために,CbnR_DBD?cbnA RBS複合体とBenM_DBD?benA RBSの詳細な構造比較を行うことにした.はじめに2つの全体構造を比較するためにCαで重ね合わせた結果,root-meansquare-deviationが1.2Aとなり2つの全体構造は非常によく似ていることがわかった(図6a).全体構造の類似性とは対照的に,25塩基対からなるcbnAのRBS配列とbenAのRBS配列を比較してみると,グレーで示したRBSのコアな部分はcbnAおよびbenAプロモーターで図6CbnR_DBD?RBS複合体(PDB ID:5XXP)とBenM_DBD?RBS複合体(PDB ID:4IHT)との比較(Structuralcomparison of the CbnR_DBD?RBS and BenM_DBD?RBS complexes.)(a)CbnR_DBD?cbnA RBS複合体(黒)とBenM_DBD?benARBS複合体(グレー)との全体構造の比較.(b)cbnAプロモーターのRBS配列とbenAプロモーターのRBS配列.両者の逆向き繰り返し配列内で共通した配列(グレー)とそれ以外の配列(黒)を色分けして示す.共通した塩基配列となっており,黒で示した部分についてはほぼ異なる配列をもつ(図6b).DNA結合ドメインとRBSとの複合体の全体構造は,このようにCbnRとBenMで非常に類似している.しかし,ゲルシフトアッセイ実験とレポーターアッセイ実験により,CbnRはcbnAプロモーターには結合して転写活性化を行うが,benAプロモーターには結合しないことが判明した.14)これはなぜであろうか?塩基配列の選択性の違いはどのように生じるのであろうか?これらの疑問に答えるために,2つの複合体構造のタンパク質-DNA相互作用について詳細な解析を行い,構造学的解析の結果に基づいて変異体を作製し,生化学的なアッセイを行った.4.2 DNA結合ドメインとRBS(DNA)との相互作用の比較DNAは4つの塩基:チミン(T),アデニン(A),シトシン(C),グアニン(G)から構成されている.各々の塩基は糖-リン酸骨格とベースの部分からなり,チミン(T)とアデニン(A),シトシン(C)とグアニン(G)がペアとなって二重らせん構造を形成する.この2つの塩基対を比較するとチミン-アデニン塩基対とシトシン-グアニン塩基対の両方に共通した部分と,塩基対の種類により異なる部分があることがわかる(図7a).そこで,チミン-アデニン塩基対とシトシン-グアニン塩基対で共通した部分でDNA結合ドメインとの間に生じる相互作用を非特異的な相互作用,共通していない部分でDNA結合ドメインとの間に生じる相互作用を特異的な相互作用と呼ぶことにする.今回,CbnRおよびBenMのDNA結合ドメインとDNA(RBS配列)との相互作用を詳細に解析し,LTTRによるプロモーター配列の選択的な認識機構を調べるにあたり,相互作用の種類を1)化学構造138日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)