ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

LysRタイプ転写調節因子CbnRのDNA結合ドメインとDNAとの複合体構造を大きく折り曲げることが示唆された(図3a).cbnAプロモーター領域には,LTTRに最初に配列を認識されるRecognition binding site(RBS)と転写活性化に必要なActivation Binding Site(ABS)が見られる.CbnR?cbnAプロモーターDNA複合体に誘導物質が結合することで生じる構造変化により,ABSとオーバーラップする部位に結合するRNAポリメラーゼによる転写が活性化されると考えられる.CbnRの各サブユニットはN末端側のDNA結合ドメインとC末端側の誘導物質結合ドメイン,2つのドメインをつなぐヘリックスリンカーから構成されている(図3b).CbnR(ホモ)四量体は,extended formとcompact formの構造の異なるサブユニットのペアで構成された二量体がさらに2つ組み合わせられてできており,高塩濃度では四量体が安定であるのに対して低塩濃度では二量体として存在することがわかっている(図3c).3.CbnRのDNA結合ドメインとcbnAプロモーターの認識配列(RBS)との複合体のX線結晶構造解析3.1経緯われわれの最終的な目標は,LTTRの一員であるCbnRをモデルケースとして,LTTRによる転写活性化の分子機構を解明することである.そのためには全長の四量体CbnRとプロモーターDNAとの複合体やさらに誘導物質が結合した複合体の構造決定が必須であることは言うまでもない.しかしながら,CbnR四量体は高塩濃度で安定・低濃度で不安定であるのに対して,CbnRとDNAとの相互作用は高塩濃度で不安定・低濃度で安定であることなどが問題となり,全長CbnR四量体-DNA複合体の結晶を得ることはきわめて困難である.また,たとえ結晶が得られたとしても大きな複合体の結晶は性質が悪いことが想定されるため,部分的な構造情報は全体構造の決定のためにも役立つはずである.このような理由から,全長CbnR?DNA複合体を安定に保持するための条件検討を行うことと同時に,CbnRのDNA結合ドメインとcbnAプロモーターの25塩基対のRBSとの複合体(以降,CbnR_DBD?RBS複合体)の結晶構造解析も進めてきた.3.2結晶化とクライオ条件の最適化CbnR_DBD?RBS複合体の結晶化スクリーニングは,高エネルギー加速器研究機構の構造生物学研究センターの結晶化ロボットPXSを用いて行った.7)その結果,沈殿剤としてPEG4000を含むいくつかの結晶化条件で結晶を得ることができた.得られた結晶をクライオプロテクタントなしで凍結することで2.9 A分解能の回折データが収集できたがDNAのモデル構築に不安が残ったため,クライオプロテクタントの検討を行った結果,30%glycerolを含むクライオプロテクタント溶液を用いた場日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)合に2.55 Aまでデータの性質が改善された.今回の場合のように,PEG4000などのポリエチレングリコールを含む結晶化条件で結晶が得られた場合でもクライオプロテクタントの最適化によりデータが改善されるケースが多いため,ぜひ検討すべきである.8),9)3.3 native SADとMR-native SADの紹介およびDNA複合体の結晶構造解析における低エネルギーでのX線回折データ収集の有効性われわれのグループでは,高エネルギー加速器研究機構の放射光施設Photon Factory(PF)のビームラインBL-1AやBL-17Aを用いて低エネルギーでのデータ収集を行うことにより,native SAD法とMR-native SAD法による構造決定を行うことを推進しており,最近ではnativeSAD法による構造決定の成功例も増えてきた.10)-13)MRnativeSAD法では,分子置換法で部分構造が決まった場合にその中に含まれる硫黄原子から実験的な位相を決定でき,3 A分解能程度の比較的低分解能のデータであっても質の良い電子密度が得られるため,自動でのモデル構築を含む迅速な構造決定に適している(千田ら,結晶学会年会2015).そのため,われわれのグループでは,分子置換法で構造が決定できそうな場合であっても波長を1.9 Aや2.7 Aとした低エネルギーSAD(nativeSAD)データを収集することにしている.今回のCbnR_DBD?RBS複合体結晶の場合には,低エネルギーでのデータ収集により,タンパク質分子に含まれるメチオニンやシステインの硫黄原子だけではなく,DNAに含まれるリン原子の異常分散が測定できるため,DNAのモデル構築の際の目印にすることができると考えられた.波長を1.9 Aとして測定したときの硫黄原子のf”=0.8,リン原子のf”=0.6,波長を2.7 Aとしたときの硫黄原子のf”=1.5,リン原子のf”=1.2である.異常分散差フーリエマップを計算した結果,DNAとタンパク質分子が相互作用している部分については明瞭なピークが観測され,DNAのモデル構築に役立てることができた(図4).図4異常分散差フーリエマップ.(Difference-anomalousFourier map around Met18.)波長1.9 Aでデータ測定を行い,3.5 A分解能で計算した異常分散差フーリエマップ(3シグマ).137