ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

アプタマー創薬と構造生物学がっていることが明らかとなった.つまり,RNAアプタマーの部分構造はAML1の標的DNAの構造を擬態して結合していることが示唆された.さらに,京都大学の永田博士らと共にアプタマーとRuntドメインの複合体のNMRによる立体構造決定を試みた. 14)このNMR解析では,DNAに比べてアプタマーがRuntドメインの広い範囲と相互作用していることが示唆された.つまり,アプタマーの一部はDNAを擬態してRuntドメインに結合し,ほかの部分でもRuntドメインに結合していることが示唆された.このような多面的な相互作用が,アプタマーが標的DNAより高い親和性をもつ理由であると考えられる.しかしながら,複合体のNMR解析では,NMRシグナルが広幅化したため,立体構造決定には至らなかった.大阪大学の杉山博士とともに複合体の結晶化を試みた.しかし,得られた結晶を用いて,大型放射光施設SPring-8で回折データを測定し解析したところ,アプタマーの電子密度は得られず,得られた電子密度はRuntドメインのものだけであった.これは,結晶化の過程でアプタマーが解離してしまった,あるいはアプタマーの揺らぎが大きいことが原因であると考えられた.そこで,結晶化の高い塩濃度においてもはがれないアプタマーを作製するため,0.5 M酢酸カリウム存在下でSELEX実験を行った.その結果,非常に結合力が高いアプタマー(Kd=約40 pM)の作製に成功した. 15),16)このアプタマーにも,前述の標的DNAの構造を擬態するモチーフが見つかっている.現在,このアプタマーとRuntドメインの複合体の結晶化を試みている.3.おわりに3.1アプタマーの構造および特性Gelinasらは,これまで報告されたアプタマーとタンパク質の複合体の立体構造からアプタマーとタンパク質の相互作用における表面の相補性を調べている.5)抗体とタンパク質の相互作用の場合に比べて,アプタマーの相補性が高いことを報告している.また,本原稿の構造解析例のアプタマーはヘアピン構造であるが,SELEX法によって四重鎖構造をもつアプタマーも多く報告されており,アプタマーはさまざまな構造を形成して標的タンパク質に結合することが明らかとなっている.これまでの立体構造解析の結果から,アプタマーとタンパク質の相互作用について次のようにまとめることができる.1アプタマーは,しなやかな構造をもっており,標的タンパク質の表面の形状に合わせるように相互作用することができる.2アプタマーとタンパク質は,広い接触面で相互作用することができる.3アプタマーとタンパク質の相互作用では,静電的な日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)クーロン引力のほかにファンデルワールス相互作用や疎水性相互作用が重要となっている.4アプタマーの立体構造形成には,二価の金属イオンが重要になることがある.3.2アプタマーの実用化実用化されているアプタマーとしては,医薬品のMacugenのほかに,次のようなものがある.耐熱性DNAポリメラーゼの活性中心に結合するアプタマーを用いたホットスタート用PCRキット(ロシュ・ダイアグノスティックス社)17)が販売されている.また,アプタマー・サイエンス社は,アプタマーを用いた,上皮成長因子受容体(EGFR)などのタンパク質の単離キットや血小板/内皮細胞接着分子CD31などを発現する細胞を単離するキットなど18)を販売している.医薬品としても,さまざまなアプタマー医薬品の開発が進められている.例えば,㈱リボミックでは,加齢黄斑変性症および軟骨無形成症の治療薬として抗繊維芽細胞増殖因子2(FGF2)の働きを阻害するアプタマー医薬品の開発が進められている. 19)また,線維症の治療薬として抗Autotaxinのアプタマー医薬品の開発が進められている.診断薬としての開発も進められている.例えば,NECソリューションイノベータ社では,ストレス診断薬として唾液中のαアミラーゼを検出するアプタマーを開発している. 20)またソマロジック社では,血清などの微量の生体サンプルから一度に約1,300種類のタンパク質を網羅的に検出するSOMAscanというサービスを提供している.このサービスでは,SOMAmer(Slow OffrateModified Aptamer)と呼ばれるアプタマーを用いて,タンパク質の検出を行っている. 21)3.3アプタマー研究の今後の展開アプタマー,特にRNAアプタマーはヌクレアーゼにより分解されやすいため,実用化するためには化学修飾が必須となっている.化学修飾には主にリボース部位の修飾があり,2’水酸基をメチル化やフルオロ化したものや,リボースを固定化したBNA/LNA修飾が挙げられる. 22)化学修飾は,分解を抑える安定化に寄与するだけではなく,アプタマーの結合活性を上げることがある.HIV-1のTAR RNAに結合するRNAアプタマーにBNA/LNA修飾導入することで,その結合能が上がったという報告がある. 23)このBNA/LNA修飾では,複合体を形成した時のコンホメーションにリボースが固定化されることで,結合能が上がったと考えられる.塩基部分の修飾もアプタマーの結合能の向上に有効であることが報告されている. 24)VEGFを標的としたSELEX法によりDNAアプタマーに人工塩基Dsをもつヌクレオチドを導入し,天然のDNAアプタマーに比べて100倍の結合能をもつアプタマーが得られている.Dsは疎水性が高い塩基であるため,VEGFの疎水性部位と相133