ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No2-3

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概要

日本結晶学会誌Vol60No2-3

坂本泰一が明らかとなっている.また,アプタマーとhFc1の相互作用界面において,さまざまな塩基とアミノ酸が相互作用していることが明らかとなった.特徴的なものとしては,U9,C8およびフリップアウトしたG7とhFc1のTyr373およびPro374が連続的にスタッキングしていた(図7).さらに,hFc1のGln342の側鎖とアプタマーの相互作用の面が最も広いことがわかった(図7).このGln342はヒトのIgGに特徴的なアミノ酸であることから,このGln342とアプタマーの相互作用が高い特異性を生み出していると考えられる.さらに,hFc1単体の立体構造とアプタマーが結合した複合体のhFc1の立体構造を比較すると,ほぼ変わらないことが明らかとなった.NMRを用いた解析によって,単体のRNAアプタマーの構造は大きく揺らいでいることが示唆されている.したがって,アプタマーはhFc1の(A)(B)(C)Ca 2+A18A A15 A GG CG C 10U A UCU95 G A GU6G C 5′G720A U(D)G CG C5′AG73′U63′図6hFc1に結合したアプタマーの立体構造.(Structureof the aptamer that binds to hFc1.)(A)アプタマーの二次構造.横線はワトソンクリック型塩基対を示し,中点は非ワトソンクリック型の塩基対を示す.(B)アプタマーの立体構造.骨格部分をリボンで表している.Ca 2+を緑の球で表している.フリップアウトしたG7を示している.(C)U6:A18:U9のbase tripleの構造.(D)U6の2’-FとG7の相互作用.(A)(B)P374 Y373G7 C8 G4 Q342U9図7 hFc1とアプタマーの相互作用.(Interaction betweenhFc1 and the aptamer.)(A)U9-C8-G7-Tyr373-Pro374のスタッキング相互作用.(B)Q342とアプタマーの相互作用.ここでは,G4の塩基との相互作用を示したが,ほかのヌクレオチドとも多面的に相互作用している.立体構造にフィットするように構造を形成しながら結合していると考えられる.一般に核酸結合タンパク質と核酸の相互作用は,ArgやLysの側鎖がもつ正電荷と核酸のリン酸骨格がもつ負電荷の静電的な相互作用が重要であると考えられている.しかし,hFc1は核酸結合タンパク質ではなく,中性のタンパク質であり,アプタマーの相互作用部位も正電荷に富んでいなかった.アプタマーは,hFc1の表面構造にフィットするような構造を形成し,多くの水素結合やファンデルワールス相互作用などの相互作用を利用して,hFc1に結合していると考えることができる.2.3転写因子AML1アプタマーの構造解析埼玉県立がんセンターの福永博士らにより,転写因子AML1のDNA結合ドメイン(Runtドメイン)に結合するRNAアプタマー(Kd=約1 nM)が作製された. 12)AML1は造血系細胞の分化にかかわる重要な転写因子であるが,その変異は急性骨髄性白血病(Acute MyeloidLeukemia:AML)の原因となっている.取得されたアプタマーは,標的DNAの約10倍の強さでAML1のRuntドメインに結合することから,AML1アプタマーはAMLの治療薬や診断薬となることが期待される.はじめに,NMRによりアプタマーの部分構造の構造解析を試みた. 13)38残基のアプタマーの部分構造(22残基)を決定したところ,アプタマーはA7:C14の非ワトソンクリック型塩基対とG15:C6:A16のbase tripleを形成していることが明らかになった(図8).すでに,RuntドメインとDNAの複合体の立体構造は明らかとなっており,RuntドメインのC末端部分が,DNAのB型二重らせんの広い主溝に結合することが明らかとなっている.通常,RNAのA型の二重らせん構造の主溝は狭いため,タンパク質と主溝の塩基が相互作用することは難しい.しかし,アプタマーの主溝はA:C塩基対およびG:C:Aのbase tripleによって,DNAのB型らせんのように広(A)10A CC GC GA CC G15A5 C GC GA UG C 20G C5′A3′(B)(C)C14A75′A16C6G153′図8AML1アプタマーの部分構造.(PartialstructureofAML1 aptamer.)(A)二次構造.(B)立体構造.主溝が広がっている.(C)A7:C14塩基対とG15:C6:A16のbase tripleの構造.+132日本結晶学会誌第60巻第2・3号(2018)